新宿歌舞伎町で中学1年生の女子生徒に声をかけ性的な暴行を加えたとして不同意性交罪に問われている元衆議院議員・椎木保被告(58)の裁判が12月25日、東京地裁(村田千香子裁判長)で開かれた。初公判ですでに起訴事実を認めている被告人に対し、検察側は懲役5年を求刑した。
“教育者”だった被告人
被告人は政治家になる前、茨城県内の学校で教鞭をふるい、教育委員会に勤務した経験も持つ。
2012年の衆院選で千葉13区に「日本維新の会」から立候補し、小選挙区では敗れたが、比例復活で初当選を果たす。2014年の衆院選では比例復活もかなわなかったが、翌年、吉村洋文氏(現「日本維新の会」代表)が大阪市長選に立候補するために衆院議員を辞職したことで繰り上げ当選。その後、17年と21年の衆院選ではいずれも落選した。
週刊誌報道などによれば、直近は会社員として働いていたという被告人。昨年9月8日に不同意性交罪の容疑で逮捕され、同月27日に起訴された。
冒頭陳述によると、被告人が歌舞伎町の「トー横」で当時12歳だった女子中学生に声をかけ、年齢を確認した上で、金銭と引き換えに性的行為をもちかけたという。その後、カラオケ店に偽名で入店し、性的暴行に及んだ。
「今日、これからどうする?」
25日に行われた被告人質問の中で、検察官から女子生徒に「声をかけた理由」を問われた被告人は、こう説明した。
「最初に被害者を見かけたときは『家出かな?』と思いました。(自分がトー横に)再び戻ったときには違う場所にいて、『声をかけてほしいのかな』と私には映りました。それで『中学生ぐらい?』『学校は?』と声をかけました。被害者は『部活は休みです』『家出をしました』と言っていました。中学生であることは何度も確認しました。『今日、これからどうする?』と聞くと、『警察に補導されるまでいたい』と言っていました。また、『ホテルに泊まりたい』ともいうので、『(宿泊費は)2万ぐらいするよ』と答えました。すると被害者は『路上で寝る』というのです…」
しばらく話をした後、2人はラーメンを食べ、カラオケ店にいく流れになったという。
「『ラーメンを食べたい』と(被害者が)言うので実際に食べに行きました。その後で『話をしよう』とカラオケに行くことになったのです。途中、ドラッグストアに行きたいと言うので立ち寄りました。『ローション化粧水を買いたい』と言っていましたが、欲しい商品がなかったとのことで、ドン・キホーテに行って買うことになりました」(被告人)
被告人が実際に購入したローションは、「大人のおもちゃ」コーナーで売っていたものだった。
検察官 「ローションはどこで使うつもり?」
被告人 「カラオケ(店)で使う意識です」
検察官 「(ドン・キホーテの)どこに置かれていた?」
被告人 「当時は気がついていませんでしたが、コンドームと一緒のコーナーでした」
検察官 「その時点で性交をしようとしていた?」
被告人 「はっきりと性交しようとは思っていません」
しかし、後に裁判官に「この時点で性交するつもりではなかったのか?」と改めて聞かれた際、被告人は「可能性はある(と思っていた)」と述べた。裁判官がすかさず「(先ほどの答えと)矛盾しないのか?」と質問すると、被告人は「本当にそうです」と素直に答えた。
カラオケ店で何が起きたのか
現場となったカラオケ店は「トー横(TOHOシネマズ新宿の横)」にある(弁護士JP編集部)
偽名を使いカラオケ店に入店したことについて検察官が「未成年と一緒である後ろめたさがあったのでは?」と指摘すると、「それはない」と否定した被告人。
その上で、カラオケ店に入店してから性交に至るまでの流れも振り返った。
「部屋に入り飲み物を頼みましたが、10分ほどたっても飲み物が来ないので、催促の電話をしました。ドリンクが届いた後で(性交する)流れになりました。正直なところ自分でもよくわからない。しかし、結局、そういう流れに持って行ったのは自分です」(被告人)
2人の様子を見て不審に思ったカラオケ店の店員が店長に報告。店長が110番通報をして、警察が駆け付けた。
この時、被告人が被害者に「2万円あげるから」と言っていたことも明らかになっている。検察官に「児童買春の目的があったのでは?」と問われた被告人は、「この子を放っておけないと思っていた」として児童買春目的も否定した。
実際に被告人が被害者に渡したのは1万円。「タクシー代として渡したつもりだった」と釈明した。
被告人「違う自分がいた」「魔が差してしまった」
前述した通り、教育者としても働き、衆議院議員を2期務めた被告人に対し、検察官は「なぜ(選挙に)立候補したのか?」とも切り込んだ。
「経済的事情で進学を諦めた人をたくさん見てきた。そのため、教育の無償化を実現したかった」(被告人)
「その思いと、今回の行為との関連はあるのか?」と検察官が追及すると、「本当に自分の58年の人生の中で、この15分の行動のときは、違う自分がいた。本当に嫌になる。今でもわからない」と被告人は自分に対する落胆をあらわにした。
「誰でもかれでも声をかけて助けたいと思っていたわけではなく、被害者は受け答えもはっきりしていた(から助けられると思った)。しかし、理性をなくしてしまったのは事実です。
被害者は当時12歳。僕の人生経験の中では教え子のようなものです。しかし、年齢以上にしっかりした女性として、大人びた女性に見えた。あの時だけ魔が差してしまった」(被告人)
さらに裁判長が「(トー横には被害者だけでなく)他にもいたのではないか?」と、被害者に声をかけた理由を尋ねると、被告人は「見た目と純粋さです。同じ年頃の子とは違うと感じた」「今思うと、弱みにつけ込むという考えはあったと思う」と答えた。
論告で検察官は「被害者が未熟であることに乗じて自らの性的欲望を充足させるために犯行に及んだ」などとして懲役5年を求刑した。一方の弁護側は「マスコミにも報道され、すでに社会的制裁を受けている」などとして、執行猶予を求めた。判決は2月3日に言い渡される予定だ。