厚生労働省が、年収156万円未満のパート労働者の社会保険料を会社が肩代わりする特例措置を検討していることが分かりました。社会保険料の支払い義務が生じることで、パート労働者の手取りが減ってしまう問題への対策で、働き控えする人を減らすことが目的の一つとみられます。特例措置は2026年4月に導入する予定とのことです。

パート労働者の多い業界で特に深刻な人手不足 


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背景には、深刻な人手不足があります。毎月勤労統計調査によると、2022年時点で全業種のうち最もパート従業員が多いのは「宿泊業、飲食サービス業」で、日本では約440万人がパートとして働いています。次いで「卸売業、小売業」が420万人。

両業種の人手不足はどの程度深刻なのでしょうか。帝国データバンクが今年10月に行った調査によると、非正社員の人手不足の割合が最も多かった業種は「飲食店」で、実に64.3%の企業が人手不足と回答。次いで、「旅館・ホテル」で60.9%、「人材派遣・紹介」で55.2%と続きます。さらに、「飲食料品小売」が49.7%、「各種商品小売」が48.9%と、パート従業員の多い「卸売業、小売業」も上位6位、7位を占めます。

非正社員の人手不足割合(上位10業種)
1.    飲食店 64.3%
2.    旅館・ホテル 60.9%
3.    人材派遣・紹介 55.2%
4.    メンテナンス・警備・検査 54.1%
5.    娯楽サービス 52.0%
6.    飲食料品小売 49.7%
7.    各種商品小売 48.9%
8.    金融 43.8%
9.    繊維・繊維製品・服飾品小売 43.8%
10.    教育サービス 43.5%

参考:帝国データバンク/人手不足に対する企業の動向調査(2024年10月)

2つの調査を合わせてみると、人手不足は、パートやアルバイトの割合が高い業種で特に深刻度を増していることが分かります。

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「106万円の壁」は撤廃予定 


106万円の壁
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人手不足解消のための一つのカギとなるのが、働き控えをなくすことです。働き控えとは、手取り額が減ることを避けるために働く時間をあえて抑えることを指します。現在の社会保険制度では、月額賃金が8.8万円(年収106万円)以上になると、パートで働く人自身に厚生年金への加入義務が生じ、保険料を払わなければならなくなり、手取り額が減ってしまいます。この問題が最近話題となっている年収の壁の一つ、「年収106万円の壁」です。

「年収106万円の壁」については、厚生労働省は2026年10月に撤廃する方針を示しています。

現在のところ、週の所定労働時間や月の所定労働日数が、正社員の4分の3以上の場合はパートでも社会保険に加入しなくてはなりません。また、正社員の4分の3に満たなくても、以下の要件を満たしている場合は社会保険への加入義務が生じます。

週の所定労働時間が20時間以上
継続して2ヵ月を超える勤務見込みがある
月額賃金が8.8万円以上
学生ではない
従業員50人を超える企業に所属している

このうち、厚生労働省は12月10日に行われた部会で、「従業員50人を超える企業に所属している」「月額賃金が8.8万円以上」の2つの条件を撤廃する意向を示しました。2026年10月から週に20時間以上働くパート労働者は、原則として全員が社会保険の加入対象となる予定です。

パートでも社会保険に加入できるようになり、老後の年金受給額が増えることが期待されます。一方で、新たに社会保険料を支払わなければならなくなり、元々少ない手取りがさらに減ってしまうことが懸念されます。

この懸念を解消するための策が、冒頭でお伝えした、パート従業員の保険料負担を企業が肩代わりする特例措置です。