長年「社宅」で過ごしたとある夫婦は、定年後の住まいについて考えた末、コツコツ貯めた貯金と退職金で「マイホーム」を購入することにしました。はじめての持ち家に浮かれる2人でしたが、その幸せは税務署から届いた“1通の封書”により、一瞬で崩れ去ってしまったのでした。宮路幸人税理士/CFPが具体的な事例をもとに、自宅購入時の注意点と税負担を抑えるためのポイントを紹介します。
長年社宅住まいの夫婦…定年を機に“憧れのマイホーム”を購入
修さん(60歳・仮名)には、同い年で専業主婦の妻、由美子さん(60歳・仮名)がいます。夫婦には2人の子どもがいるものの、33歳の長女と30歳の長男はどちらもすでに結婚して家庭を持っているため、現在は夫婦2人暮らしです。
修さんは全国転勤のある企業に勤めていたことから、住まいは長年借り上げ社宅でした。
修さん自身はマイホームへのこだわりがなく、定年後に社宅を出ても賃貸で暮らしていくつもりでいましたが、由美子さんには「いつか持ち家が欲しい」という野望がありました。そのため由美子さんは社宅暮らしで浮いた家賃を「住宅購入費」として密かに積み立てていたそうです。
定年が近づくなかで今後の住まいについて話し合っていると、由美子さんは次のように言いました。
「知り合いから聞いた話なんだけど……私たちぐらいの年齢になると、アパートやマンションが借りづらくなっているんですって。家主が亡くなって事故物件になるのを嫌がる大家さんが多いみたいで……。だから、どうせなら持ち家にしましょうよ! 2人で住むならそんなに広くなくていいんだし、きれいな家に住みたいわ」
(この年で持ち家か……)
由美子さんの話を聞いた修さんは、当初あまり乗り気ではありませんでした。しかし、由美子さんの話が気になりインターネットで調べてみると、たしかに年をとればとるほど家を借りにくくなるというのは事実のようです。また、配偶者に先立たれて1人になった場合は、さらに借りにくくなることもわかりました。
「なるほどな……不安を抱えながら賃貸で暮らすよりも、持ち家のほうがなにかと安心かもな」
妻の熱意に圧される部分はありながらも、修さん自身マイホームに惹かれはじめていました。
その後「実はね……」と、由美子さんから住宅購入貯金の存在を知らされたのでした。
「家計管理を任されていたでしょ? 私、マイホームを買うのが夢だったから、貯めていたの」
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堅実な修さんがマイホームの購入を決断した“決め手”
由美子さんの話によると、貯まった住宅購入資金は約2,000万円。修さんの退職金とあわせると、夫婦の預貯金は5,000万円ほどになることがわかりました。
金銭的な余裕も確認できて安心した修さんは、定年後65歳まで再雇用を受けられることもあり、ついにマイホームの購入を決断したのでした。
夫婦で話し合った結果、なにかあったときのために最低1,000万円は残しておきたいと考え、4,000万円以内で物件を探すことにしました。知り合いに相談したり、いくつかの不動産会社に掛け合ったりとマイホーム探しに奔走した末、ついに3,800万円で理想的な物件を見つけました。
「ついに念願のマイホームね!」積年の望みが叶い、由美子さんの喜びもひとしお。引っ越しにより娘家族の住まいとも距離が近くなり、孫にも会いやすくなりました。
「これからは家賃の心配もないし、老後は安泰だな。貯金も残っているから給料は好きに使っちゃおう! まずは孫に貢いで好感度アップだ」
人生初の持ち家に浮かれる修さん・由美子さん夫妻。ここから幸せなセカンドライフがスタートするはずでした。