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●こだわりの酒屋とそこからお酒を仕入れる飲食店、2つの視点から紐解くお酒、料理の魅力に迫ります

 川崎においしいお酒を扱う酒屋があります。蔵元の情熱とこだわりを深く理解し、酒一滴一滴に込められた物語を感じ取る。味と風味を熟知し、来店する地元の人や飲食店の好みに合わせたお酒を提供する酒屋、『地酒や たけくま酒店』。川崎の日本酒を扱う飲食店界隈では有名な、こだわりの酒屋です。

“こだわりの酒屋はおいしいお酒を知っている、おいしい飲食店はこだわりの酒屋からお酒を仕入れているはず”という仮説から『地酒や たけくま酒店』の2号店となる元住吉店店長・佐藤温志さんに相談して実現した、地域に根付いた酒屋と飲食店のおいしい関係を発掘する本企画。

 第6回は佐藤さんと、東急東横線綱島駅より徒歩5分、今年10月に創業60周年を迎え、神奈川県産の素材と地酒にこだわる『みどり鮨』からお届けします。

 紹介するお酒は日本酒「いづみ橋 恵 青ラベル 純米吟醸」(泉橋酒造株式会社)。神奈川県海老名市に蔵元があります。

ネタケースがない!?『みどり鮨』の革新性


『みどり鮨』店主・遠藤年男さん

「都心からも駅からも少し離れている場所に店があるので、お客様に“わざわざ行きたい”と思ってもらえるような店を目指しています」と語る『みどり鮨』店主・遠藤年男さん。


カウンターの前にはネタケース、という寿司屋の定番風景は『みどり鮨』にはありません

「他がやらないことをやる」をモットーに、ユニークな挑戦を続けてきたといいます。その象徴的なひとつが、ネタケースのないカウンター。

「一見、入りづらいけれど、入ったらわかる。そんな特別感を大事にしたいんです」

 なぜ、ネタケースを無くしたのか?遠藤さんは「原点回帰」と言います。深い理由はお店で直接聞いてください。その方がきっともっとおいしい時間になるはず。

赤酢を使ったシャリは『みどり鮨』の代名詞、こだわりは神奈川県産


ランチの「握り」 赤酢のシャリと地の魚、江戸前の技術で旨みを引き出す

右下はランチメニューについてくるお椀。たっぷりの海苔がうれしい

「昔から赤酢を使っているのは、当店のこだわりのひとつなので、そのおいしさを多くの人に知っていただきたい。また個人的にですが、熟成感を感じる赤酢の方が日本酒との相性も良いと思うんです」


ランチの「ちらし」。赤酢のシャリの上に、旨みが凝縮された素材がふんだんに

 一番のこだわりは地元・神奈川県産の魚や野菜をふんだんに使うこと。握りも一品料理も、四季折々の彩りが美しく、目と舌を楽しませてくれます。

『みどり鮨』が神奈川県産にこだわっているのは、食材だけではありません。揃えている日本酒は神奈川県の地酒が中心なのです。

『みどり鮨』と『地酒や たけくま酒店』との運命的な出会い


「いづみ橋 恵 青ラベル 純米吟醸」(泉橋酒造株式会社)と遠藤さん。泉橋酒造株式会社のモットーは“酒造りは米作りから”

『みどり鮨』が地元・神奈川の地酒を多く扱うようになったきっかけは、遠藤さんが代替わりした12年前。当時、いくつかの地酒を試した中で、「いづみ橋」(泉橋酒造株式会社)との出会いが運命を変えたといいます。

「飲んだらとてもおいしくて。詳しくお話を聞きたいと思い初めて酒蔵を訪れたとき、泉橋酒造さんが丁寧に説明してくれて感動しました」と遠藤さんは振り返ります。

 早速お酒を店で取り扱いたいと伝えたところ、特約店制度など、お酒の仕入れにはルールが多く、最初は戸惑いの連続。そんなとき、泉橋酒造から紹介されたのが『地酒や たけくま酒店』本店だったといいます。

遠藤さん:当時は『地酒や たけくま酒店』に色々と教えてもらいながら、神奈川の酒を増やしていったんです。


『地酒や たけくま酒店』元住吉店店長・佐藤さん

佐藤さん:それから『みどり鮨』さんでは「いづみ橋 恵 青ラベル 純米吟醸」が定番酒となったんですね。社長をはじめ本店の先輩から当時の話はよく聞いています。
 泉橋酒造は6代目蔵元・橋場友一さんが1995年に蔵に戻られてから、酒米の栽培、精米、醸造といった酒造りを一貫して行う「栽培醸造蔵」への切り替え、造るお酒全てを純米酒にするなど、蔵に大変革を起こされたそうです。
 もともと海老名に根付く農業の文化、それを守ることが酒蔵の仕事と捉え30年も前にいち早く舵を切ったらしいですね。
『みどり鮨』さんの地元に根差し、地元を活かした食文化にこだわる姿勢は知っていたので、企画をお願いするにあたり泉橋酒造のお酒とやりたいなと思っていました。
 飲食店が神奈川の地酒を揃えることも、当時この界隈で他にはなかったんですってね。刺激的だったと先輩が話していましたよ。

遠藤さん:うれしいです。でも、最初は神奈川のお酒が売れなくて。なんでなんだろう?だったら神奈川のお酒を増やそう!と思ったのが始まりだったんです。若かったので意地になっていた部分もあると思います笑。
 結果、地元の素材、神奈川の地酒にこだわる『みどり鮨』になったので良かったです。おっしゃる通り、神奈川県産にこだわるお店は他にはあまりないので。

佐藤さん:蔵に隣接する酒米の田んぼ。そこで蔵人は四季を通して稲の成長と生き物の営みを目の当たりにしながら酒造りを行っています。相模川に沿った他の地区にも契約栽培の田んぼがあり、同じ品種でも地区の個性が出ますから、そういった違いには蔵に訪れた外国人も関心を示すそうです。
 土地の特徴を楽しめるのが地酒なので、何を合わせるかと言えば、まずは同じ土地の食材を合わせてみたくなりますね。あまり調理しないで素材が活かされた料理と。お寿司は最適です!

遠藤さん:昔、石川県に旅行に行った際、郷土料理と地酒のお店がすごくおいしかった。テロノワールというと何か格好いい感じがしますけど、その土地の地酒と郷土料理って合うなと実感したんです。

『みどり鮨』のお寿司と「いづみ橋 恵 青ラベル 純米吟醸」を合わせて――

佐藤さん:言うことないくらい馴染みますね笑。地のもの同士だからそう思うわけじゃなく…お酒自体が単純に美味い。普段販売していると、泉橋酒造のお酒は冷酒よりもアツアツの燗酒にすると膨らんで味わい深いという印象を持たれているようです。もちろんその面もあるし、でもこれは冷酒も旨味があって美味しいですね。
 やはり橋場さんが間口を広げようと方向性を変えていったそうです。赤酢の酸もまろやかでお酒のほのかな和柑橘のような酸とケンカせず、このペアリングはずっと飲めるやつです!
 横浜界隈で地のものを食べて地酒を飲むなら、『みどり鮨』でしょう。

 現在では、『みどり鮨』は神奈川の地酒の魅力を発信する場にもなっています。

『みどり鮨』ではファン垂涎の秘蔵熟成酒も楽しめる?


神奈川愛に溢れる地酒ラインナップに加え、他県の長期熟成酒も。左「神亀 真穂人 純米酒 18.5度 2003BY」 右「開運 作 波瀬正吉 無濾過生 17度 2003BY」

 『みどり鮨』には熟成酒のメニューがあります。「他がやらないことをやる」がモットーの遠藤さんは数年前から熟成酒に注目し、常連さんに勧めているそうです。

「最初は、なんか変なことしはじめたって言われたんですけど、ただお酒を仕入れて提供するだけでなく、付加価値をつけたかったんです。時々、出会うじゃないですか、口開けして寝かされた日本酒。寝かす為に作られた日本酒もあれば、そうでないのもある。でも、熟成された日本酒ってちゃんと寝かせばおいしいぞ!と気づいて勉強したんです」

 今でこそ常連さんは熟成酒を頼むことはあれど、当時は、日本酒の20年熟成と聞いても常連さん達は「それって大丈夫なの?」と尻込みする反応。

 まずは体験してもらおうと、サービスで20年ほど熟成した大吟醸などを振る舞って浸透させたと言います。

佐藤さん:え、サービスですか!?

遠藤さん:そうなんですよ。安くはないお酒ですが、おいしさを体験していただかないとはじまらないので。それに、手に入りにくいだけで価格設定を高くするよりも、時間経過による付加価値の方が腑に落ちるんです。

佐藤さん:それこそ時間が経たないと味わえない。せっかくお寿司屋さんだし特別な日本酒を飲みたい気持ちってありますよね。その選択肢として熟成酒を揃えたなんて、カッコいい。
 そのこともあり、今日は「いづみ橋 純米直汲み たけとんぼ」をお持ちしました。このお酒は春に当店のスタッフが蔵まで汲みに行き、汲み立てと生酒のまま瓶貯蔵で熟成させた秋とで2回販売します。
「直汲み」と言って搾られるお酒を手作業で直接瓶に汲んでいくのですが、春にはガス感もあり溌溂さを、秋には熟成したまろやかな味わいを楽しめる。
 一年を通した味の変化で季節の移ろいを感じられるような、泉橋酒造と当店とオリジナル酒です。お持ちしたお酒は秋を越えて今に至るので、さらに味が乗っています。もちろんお燗も良いです。
「みどり鮨」さんの秘蔵熟成酒と比べたらまだまだ若いですけど!

遠藤さん:今サービスで出しちゃうのもったいないかなぁ。もっと寝かせたいなぁ笑

まとめ

『地酒や たけくま酒店』と『みどり鮨』のおいしい関係、いかがでしたでしょうか。引き続き、地域に根付いた酒屋と飲食店のおいしい関係を追いかけます。
次回はどんなお酒とどんな飲食店が登場するか?お楽しみに。

*みなさんの好きなお酒の銘柄を教えてください。好きなお酒の思い出、エピソードなどもあると思います。是非、『好きなお酒の銘柄』を下記のフォームにお寄せください。
●『好きなお酒の銘柄』書き込みフォーム
https://forms.gle/ayiCm2vadPRo9A4x9

無くなり次第終了!「いづみ橋 純米直汲 たけとんぼ」一杯サービス企画

『みどり鮨』のご協力のもと、お店で「食楽webのinstagram」をフォロー、フォローしている画面を見せると「いづみ橋 純米直汲 たけとんぼ」一杯サービス!

 とんぼラベルが印象的な「いづみ橋」と『地酒や たけくま酒店』、とんぼ+たけ=「たけとんぼ」。
 無くなり次第終了です!

●SHOP INFO

みどり鮨

住:神奈川県横浜市港北区樽町2-11-19 1F
Tel:045-531-0394
営:昼 12:00〜14:00、夜 月・木曜18:00〜22:00、火・土・日曜17:30〜22:00、金曜19:00〜22:00
定休日:水曜

●SHOP INFO
地酒や たけくま酒店

本店
住:神奈川県川崎市幸区紺屋町92
TEL:044-522-0022

元住吉店
住:神奈川県川崎市中原区木月3丁目10-17
TEL:044789-5561

オンラインストア

(企画・取材◎ヨネダ商店)