「シャネル」の新しいアーティスティック・ディレクターが決まる

マリ・クレール編集長、田居克人が月に1回、読者にお届けするメッセージ。空席だったビッグ・メゾンの注目のポジションに誰が座るのか……
業界では様々な噂が飛んでいたが、「ボッテガ・ヴェネタ」のマチュー・ブレイジーが大役を。

噂された大物デザイナーたち

年末に大きなニュースがファッション界を駆け抜けました。「シャネル」の新しいアーティスティック・ディレクターが発表されたのです。

彼の名前はマチュー・ブレイジー、今まで「ボッテガ・ヴェネタ」のクリエイティブ・ディレクターを務めていました。

ベルギーとフランスにルーツを持つ彼は、これまで「ラフ・シモンズ」「メゾン・マルジェラ」「セリーヌ」「カルバン・クライン」などでも経験を積んでいます。

もちろん「シャネル」というビッグ・メゾンにかかわることができるのはデザイナーにとっても大変光栄なことだと思いますし、「シャネル」側の期待もとても大きいと想像されます。


〈左〉カール・ラガーフェルドと〈右〉ヴィルジニー・ヴィアール
WWD / Getty Images

長い間「シャネル」のクリエイティブ・ディレクターを務めていたカール・ラガーフェルドが 2019 年に亡くなり、その後を継いだのはカール・ラガーフェルドのアシスタントを長い間務めていたヴィルジニー・ヴィアールという女性でした。彼女はカールの路線を踏襲し、順調にそのキャリアを重ねてきました。しかし昨年の6月に辞意を表明し、先シーズンはデザインチームでコレクション発表をした「シャネル」。次のクリエイティブの責任者になるのは誰なのか。カール・ラガーフェルドのような大物デザイナーが長く務め、クリエイションだけでなくその一挙手一投足が注目を浴びてきた「シャネル」のようなビッグ・メゾンでは、ささいなことも様々な臆測を呼んだり、注目を集めたりしてしまうものだと思います。

後任のデザイナー選びに長い時間がかかったため、また最近は数名の大物デザイナーがそれまでいたブランドを去ったため、業界ではいろいろな噂が出ていました。

例えば「セリーヌ」のエディ・スリマン。「ヴァレンティノ」のピエールパオロ・ピッチョーリ、さらには「アレキサンダー・マックイーン」のサラ・バートンの名前も挙がっていました。

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マチュー・ブレイジーが新しい物語を紡いでいく

そんななか新任のマチュー・ブレイジーは4月からチームに加わり、1年間に2回のオートクチュール・コレクション、2回のプレタポルテ・コレクション、さらにはバッグや靴のクリエイションに携わるそうです。「メゾン・マルジェラ」ではオートクチュールの経験もあり、また「ボッテガ・ヴェネタ」ではバッグのデザインで大変なキャリアを持つマチュー・ブレイジーですが、アーティスティック・ディレクターの仕事は本当に休む暇もなく、また規模もけた違いに大きな「シャネル」でこれから大変なプレッシャーとも闘わなければなりません。


「ボッテガ・ヴェネタ」でのマチュー・ブレイジー
Victor VIRGILE / Getty Images

そういう意味でも「シャネル」以外に「フェンディ」にもかかわり、さらには自分自身のブランドにも携わっていたカール・ラガーフェルドはまさに超人といえます。

あるファッション・ジャーナリストが言っていました。「ファッション・デザイナーには二つのタイプがある。一つは自分のクリエイションをとことん追求していき自分独自の世界を作っていくタイプ、もう一つはすでに存在しているブランドでアーカイブや歴史を踏まえ、その DNA を上手に使って新しいものを作っていくタイプ」と。

「シャネル」のような歴史あるビッグ・メゾンでは、多くの物語やヘリテージがあり、それらはアイテムや素材、モノづくりにも反映されています。つまり基本的には変わらない「シャネル」のアイデンティティをベースにコレクションやアイテムなどを、さらには物語を作っていくのではないでしょうか。

新しいアーティスティック・ディレクター、マチュー・ブレイジーは、先にも書いたようにモノづくりが最優先のブランド「ボッテガ・ヴェネタ」で多くのバッグを開発してきました。「シャネル」の素晴らしい職人技を誇るモノづくりのチームとも、これから素晴らしい化学反応を起こすのではないでしょうか。

彼の「シャネル」での初めてのコレクションは2025年10月のコレクションからになるそうです。さてどんな「シャネル」に変わるのか、とても楽しみです。

2025年1月30日