1970年英国から独立した「フィジー」は周辺がタックスヘイブンであるなか、法人税率を20%課税しています。国際課税研究所首席研究員の矢内一好氏が解説します。

フィジーという国

フィジー共和国(Republic of Fiji)は太平洋のメラネシア地域に所在し、近隣にはパプアニューギニア、ソロモン諸島、バヌアツ、ニューカレドニアがあります。

面積は四国とほぼ同じで、人口は約90万人です。1970年に英国から独立しました。

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租税条約の適用拡大でタックスヘイブンを規制

たとえば、A国・B国の間に租税条約が締結されていたとします。B国は海外領土(C)を所有していることから、このAB租税条約をCまで拡大することを両国で合意した場合、AとCとの取引などに対して、AB租税条約が適用になります。これを租税条約の適用拡大といいます。

租税条約の分野では、米蘭租税条約のアンチルへの適用拡大が有名です。オランダ領アンチル(Netherlands Antilles)はカリブ海にある自治領で、第2次世界大戦中、オランダ人が欧州の戦火から財産を守るために、ここを利用したといわれています。

米蘭原条約は1948年に署名され発効しましたが、1952年から1955年にかけて両国間において、原条約のアンチルへの適用拡大に関して書面の交換が行われました。1955年6月15日に適用拡大の議定書に署名され、1955年1月1日から適用となり、これが米国・アンチル原租税条約として、米蘭租税条約から独立したのです。

米国・アンチル原条約は、1963年10月23日に署名された議定書により改正され、1965年初頭から適用となりました。その後、1987年に利子条項を除いて終了し、1995年の議定書により1996年12月30日をもって終了しました。

米国・アンチル租税条約が注目された理由は、アンチルがタックスヘイブンであったからです。アンチルの税制は、昭和53年に日本において創設されたタックスヘイブン対策税制において「特定事業所得軽課税国等」として指定されました。

そこでは、インベスト・カンパニー(投資会社)とパテントホールディング・カンパニー(特許権保有会社)が対象となっており、アンチルにおけるこれらの企業形態に対する法人税の最高税率は3%でした。

では、なぜ米国はタックスヘイブンであるアンチルに米蘭租税条約の適用拡大を認めたのかということですが、推測できることは米国の源泉徴収を回避して有利な条件で債券発行ができるアンチルに注目した業界などがあり、その圧力ではないかと思われます。

米国は1977年に対アンチル租税条約を利用した租税回避規制を盛り込んだモデル租税条約を制定しました。1980年代に入り米国議会では、租税条約を利用した租税回避に関心が高まり、1981年にはその内容を拡充したモデル租税条約を作成しています。そして、1983年に、米英租税条約、米国・ベルギー租税条約の適用拡大を終了しました。