Aさん、税務署それぞれの主張は…
争点となったのは、下記の2点です。
1.父・母の口座からAさんの口座への資金移動は贈与税の課税対象となるか
2.Aさんの相続税を母名義の口座から納付したことは、贈与税の課税対象となるか
■Aさんの主張
Aさん(の相続人)は、【争点1】について、資金移動があったうちの一部は父の所有する賃貸住宅の管理を手伝った“報酬”としてAさんが受け取ったものであり、その他のものについても贈与契約を結んでいないことから、贈与には該当しないと主張しました。
【争点2】については、相続税の申告書の作成に追われ納税資金を準備できなかったことから“一時的に”母に立て替えてもらっただけであり、税務署の課税処分は取り消されるべきだと主張しました。
■税務署の主張
これに対し税務署は、まず【争点1】について、資金移動の理由が明確でなく、「贈与ではない」とする証拠も示されていないと述べました。
また、Aさんの「資金移動は贈与ではなく報酬であった」とする主張に対しても、契約書や給与支払いの記録による業務の対価としての証拠がないことから、贈与税の課税対象とすることは妥当であると反論しました。
【争点2】についても、母に資金を返済した形跡がないことから、実質的には母がAさんの納税義務を肩代わりしたことになり、税法上は贈与とみなされるとしました。
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審判所は、2つの争点ともに「贈与」であると認定
国税不服審判所は、2つの争点ともに「贈与」であると認定しました。その根拠は次のとおりです。
まず【争点1】については、Aさんやその相続人が資金移動の理由や事情について説明していないことや、「報酬」であると認めるに足る証拠が提出されなかったことから、贈与とみなすのが適切と判断しました。
【争点2】についても、まずAさんが相続税の納税をするのに十分な預金を持っていたことを確認したうえで、返済の約束があった証拠もなく、実際に返済もされていなかったことから、「立て替え」ではなく、母からAさんへの贈与であると認定しました。
その結果、税務署の課税処分は適法とされ、Aさんには贈与税の支払い義務があると結論づけられています。