キャリアアップを目指してバリバリ仕事をこなしていたサラリーマンのAさん。めでたく部長に昇進し、“部長手当”に喜んだのもつかの間。給料日に明細を確認したところ、思わず二度見してしまう事態に。いったいなにがあったのでしょうか。FPの武田拓也氏が具体的な事例をもとに、所得税や住民税の仕組みを解説します。

念願の「部長」に昇進も…給料日に見たまさかの支給額に唖然

都内の中小企業に勤めるAさんはとても上昇志向が強く、朝は誰よりも早くから、夜は誰よりも遅くまで働いていました。というのも、同期最速での部長昇進を目指していたからです。

しかし、必死の努力も虚しく、その夢は叶いませんでした。同期で最初の部長が誕生してから2年後、Aさんは念願の昇進を果たします。

部長へ昇進する前は営業部でバリバリ働いていましたが、部長として配属されたのは少人数の部署。辞令を聞いて少々肩透かしをくらったAさんでしたが「部長は管理職だから残業代もつかないし、仕事量が少ないならラッキーだな」と気持ちを切り替えます。

昇進してからというもの、その日のうちにしなくてもいい仕事は翌日に持ち越すようになり、ほとんど残業をすることはなくなりました。そのおかげで以前より仕事を早く切り上げられ、時間に余裕が生まれたようです。これまでは断っていた飲みの席に参加したり、仕事帰りに趣味のゴルフ練習に行ったりするようになりました。

そしてついに、昇進して最初の給料日。社内システムですぐに給与明細を確認しました。そこには、これまでにはなかった「部長手当」の文字が。

「最速昇進は叶わなかったが、ここまで本当によく頑張ったよ俺は」

これまでの努力を思い返してあふれそうになる涙をぬぐっていると……。

「あれ……?」

支給総額を確認したところ、これまでとほとんど変わらない金額が記載されていることに気づきました。

「なんだこれ、間違っているんじゃないか?」

思わず給与明細を二度見したAさん。しかし、何度確認しても金額は変わりません。

そこで、懇意にしていた人事部の知り合いに内線したところ、衝撃の事実を告げられました。

「A部長は前年の所得が900万円を超えていたので、所得税率が23%から33%に上がっているんですよ」

「えっ……どういうこと?」

一刻も早く昇進したいと目論んでいたため、なんとか成果をあげようとがむしゃらに仕事に励んできたAさん。その結果、残業代を含めた所得が900万円を超えてしまい、所得税率が上がってしまっていたのでした。

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給与所得者の平均年収は460万円…900万円は上位何パーセント?

1年を通じて勤務した給与所得者の平均給与は次のとおりです。

給与所得者数は5,076万人で、その平均給与は460万円となっています。男女別にみると平均給与は男性569万円、女性316万円です。正社員と正社員以外の平均給与についてみると、正社員530万円、正社員以外202万円となっています。

年収900万円超の給与所得者はどれくらいいるかというと全体の7%程度です。上位7%に入ったAさんですが、年収は900万円を超えているため高所得者となり、所得税の税率も高くなっています。