日本では季節の変化を敏感に感じ取り、年中行事や習わしに添った植物を暮らしに取り入れてきました。

「二十四節気の花あしらい」では難しいルールにとらわれず、気軽に季節を感じられる花を楽しむテクニックを第一園芸のトップデザイナー、新井光史がご紹介いたします。

2025年3月5日から二十四節気は啓蟄に

啓蟄とは、冬ごもりしていた虫たちが、陽射しの温もりで目覚め、動き出すころを表した節気です。そして季節は仲春。節気と実際の季節感が近しく感じられる時季のはじまりです。

今回は神話にもたびたび登場するほど、とても古くから親しまれてきた「アネモネ」がテーマです。レトロなようでスタイリッシュなアネモネを楽しみつくす、花あしらいをご紹介します。

色の魅力

アネモネにはさまざまな魅力がありますが、最も印象的なのが「花の表情」ではないでしょうか。中心分のおしべとめしべはまるで瞳のようです。それを取り囲んでいるのは、実は花びらではなく「ガク」で、花びらは退化してしまったユニークな花です。

同じ色でも中心部とガクの組み合わせが微妙に異なり、一輪一輪が違った表情に見えるのがアネモネらしさかもしれません。

そんなアネモネの魅力を楽しめるのが、さまざまな色をひとまとめにした花あしらいです。色の濃淡やグラデーション、一重や八重などさまざまで、見ごたえ抜群。たまには色を遊ぶように、こんな花あしらいを試してみてはいかがでしょうか。

今度は色ごとに分けて生けてみました。

ここではアネモネを紫と白の花に色分けして生けて、対になるように飾っています。もちろんどちらかの色だけでも素敵なのですが、あえて分けて飾ることで、表情が違うのに相性はぴったりというユニークな楽しみ方ができます。

赤いアネモネだけを陶器の器にあしらい、余白には花の付いていない「椿」を一枝添えました。

こんな風にあえて茎が見えないように生けると、花の印象がぐっと高まります。そして、アクセントになっているのが椿の枝です。柔らかい質感のアネモネに対して、硬質な椿の枝が全体を引き締めてくれます。

大きな器だからといってたくさんの花は必要ありません。器の余白を活かして花を生けると立体感が出て、ドラマティックな花あしらいになります。

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茎の魅力

アネモネは茎も個性的。真っすぐ伸びたものは少なく、不思議な形に曲がっていたり、驚くほど太いものがあったり、茎がタリアテッレのように幅広いものがあったりと、とてもユニークです。そんなアネモネの全体の姿を楽しめるように、1本1本が引き立つ花あしらいを考えました。

茎を長めにカットした白から紫のアネモネを1、2本ずつ、分けて生けます。花器は花の印象を引き立てる、シンプルなものがおすすめ。

写真では、花どめを兼ねたて小さな石をアクセントにしました。いくつも花器を並べる場合、全ての花器に石を使ってしまうとうるさくなってしまいますので、2、3個に留めると、バランスよく見えます。

こちらでは、白から濃いピンクのアネモネを一本ずつ並べました。上の写真では長く、下の写真では短くして生けています。

こんな風に長さを変えるだけでも、雰囲気が大きく変わります。例えば、最初の数日は長めの姿を楽しんで、お手入れの際に短めにカットすると、花の水揚げもよくなる上に雰囲気も変わって、二度楽しむことができます。