
3月8日は「国際女性デー」。1975年に国連によって制定され、各国でジェンダー平等や女性のエンパワーメントについて話し合う機会になっている。この50年の間に、働く環境をはじめ、女性を取り巻く状況は変化してきた。その過程には、活躍の場を自ら切り開いてきた人たちの足跡がある。2025年の今、女性が少ない世界で奮闘する4人の生き方に迫った。
バイク業界を「女性初」で走り続けて
「働く環境はものすごく変化してきたという実感があります。会社の制度も人々の意識も変わりました」
そう語るのは、現在、川崎重工業でグローバル戦略を担う桐野英子だ。「漢のカワサキ」と呼ばれるカワサキモータースジャパンで2021年から24年まで代表取締役を務めた。バイク業界で女性がトップに就いたのは初めて。来た道を辿れば、海外に駐在した時も、管理職に就いた時も、いつも「女性第一号」だった。
撮影:西田香織
「男女雇用機会均等法が施行されたのは1986年で、私が入社したのは91年。川崎重工業が正式に女性総合職を採用するようになって、2期目でした」
北海道に生まれ、専業主婦の母親に厳しく育てられた。上京の許可を得るため、「北海道では勉強できないものを」と知恵を絞り、東京外国語大学に進学してペルシャ語を専攻。大学時代に旅したトルコで、日本企業がボスポラス海峡に架けた橋を見る。日本の技術力で新興国の役に立ちたいという思いが芽生え、川崎重工業に就職した。
ところが、学生の頃からバイク乗りだったことが影響し、配属はオートバイ部門。明石工場で、欧州向けの海外営業を担当した。
「明石工場に女性総合職が来るのは初めてで、受け入れる側も戸惑いがありましたね。中には『早くやめてほしい』と思っていた人もいたようです。『女性は優秀でもいずれやめてしまうから』と。でも私は、『本社の試験を受けて採用され、ここに配属されました。私の存在に問題があるとお考えであれば、人事におっしゃってください』と答えていました。3年は頑張ろうと心に決めて、借金をして車を買っていましたから、絶対にやめられなかったんです(笑)」
管理職になるまでの昇進は試験で、コツコツと歩みを進めた。そして、2001年にフランスで販売会社の代表になり、8年間赴任する。
「面白いのが、欧州はゲルマン系とラテン系で消費性向が分かれ、ヒットが出ると一気に複数国で広がること。それを見据えた生産体制を確保する必要があります」
各国の販売会社を巻き込んで開発した新機種が、欧州最高の販売台数を記録。フランスで確かな実績を残した。
「仕事で大切にしていることは、対価に見合った成果を出すこと。給料をもらう方法には3つあると思います。時間、頭、体力、どれを使うか。その時々の環境や状況により、何を使うべきか考えます」
役職が上がり、マネジメントする立場になって意識したことがある。
「声をかけられた時に絶対ムスッとしない。どんなに忙しい時も、にこやかに話を聞くようにしています。それから、怒らないこと。頭に来た時にはいきなり伝えず、コーヒーを飲んだりして一呼吸します。社長になってからは特に意識しました。萎縮されると、情報が上がってこなくなりますから」
自ら企画したNinja ZX-25Rのレース「Ninja Team Green Cup」に出場するための練習(写真提供:川崎重工業)
会社員生活を振り返ると、部署でも会議でも、女性は自分一人という場面がほとんどだ。
「私だけ情報が伝わっていないとか、お弁当がないとか、そういうことは山ほどありました。でも、性別に関係なく、頑張っているから認めようという上司もいました。そういう人との出会いに恵まれたと思います」
女性たちがより活躍するために、何が必要だろうか。
「経営陣に一定数の女性を入れることは必要です。形式的に女性を一人置いたところで、意見は通りづらい。複数いたほうがいいでしょう。社員は、仕事に全力投球できる状態の人もいれば、そうではない人もいます。モチベーションを理解し、適材適所で配置する。うまくいかなかったら変えてもいい。そういう柔軟性も大事だと思いますね。年代や性別もさまざまな人たちが知恵を出し合うことで、より成果が上がると思います」
・【国際女性デー】 リーダーシップを発揮する女性からのメッセージ。カルティエ ジャパン プレジデント&CEO 宮地 純さん
・【国際女性デー】リーダーシップを発揮する女性からのメッセージ。日本女子プロサッカーリーグ(WEリーグ)チェア(理事長) 高田春奈さん