
兵庫県・斎藤元彦知事が、自身のパワハラ疑惑の内部告発問題に関する「情報漏えい」疑惑等について、3つの「第三者委員会」に調査させているとされている。また、そのメンバーとなる弁護士には相当額の報酬を支払うとしている。
しかし、それら「第三者委員会」の法的根拠については、現時点で必ずしも明確とはいえない。このような場合、第三者委員会は法的な正当性を有するのか。また、第三者委員会はどうあるべきなのか。元総務省自治行政局行政課長で、弁護士として、適切な内部通報制度のあり方も含めて検討している日弁連の「自治体の内部統制の在り方に関する検討チーム」の委員を務める神奈川大学法学部の幸田雅治教授(地方自治法)に聞いた。
3つの「第三者委員会」いずれも「法的根拠」に問題あり
現在、兵庫県には、斎藤知事のパワハラ疑惑の告発に関連する調査のため、以下の3つの「第三者委員会」が存在し、並行して活動しているとされている。
委員会(1):斎藤知事のパワハラ疑惑等を調査(文書問題に関する第三者委員会)
委員会(2):元総務部長が元県民局長(自死)の公用パソコン内のデータを印刷してファイルにし、県議会議員らに漏えいした疑惑を調査(人事課が外部の弁護士に調査依頼?)
委員会(3):「NHKから国民を守る党」の立花孝志氏らがSNSで拡散した県情報の漏えい疑惑を調査(法務文書課が外部の弁護士に調査依頼?)
このうち、(1)「文書問題に関する第三者委員会」については「要綱」が定められ公表されている。これに対し(2)(3)は斎藤知事が記者会見で「第三者委員会」と呼んでいるのみで要綱は公表されておらず、その調査体制等も公表されていない。また、調査結果の公表の有無も未定とされている。
幸田教授は、3つの「第三者委員会」とされる組織を(1)と、(2)(3)とで区別し、いずれも法的根拠に問題があると指摘する。
幸田教授:「まず、(1)は要綱というルールに基づき構成される『委員会』ですが、そもそも『委員会』の組織を『条例』ではなく『要綱』に基づき設置している点に問題があります。
第三者委員会は地方自治法でいう『附属機関』であり、民主的コントロールを及ぼす見地から、原則として、県議会が制定する条例の根拠をもって設置しなければなりません(地方自治法138条の4-3項)。これを『附属機関条例主義』といいます。
ただし、ケースによっては例外的に『要綱』による設置が認められる場合もあり得ます。しかし近年、要綱により設置した第三者委員会について住民訴訟が多く提起され、自治体が敗訴するケースが相次いでいます」

神奈川大学法学部・幸田雅治教授
「要綱による設置」が“NG”な理由
本件の委員会(1)は要綱で設置されているが、許容されるのか。幸田教授は基準として近時の裁判例を紹介し、「自治体の意思決定過程に組み込まれているか否か」が重要だと指摘する。
そして、委員会(1)はその基準にてらし、条例の根拠が要求されるため、要綱による設置は違法だと説明する。
幸田教授:「名古屋地裁令和5年(2023年)3月27日判決が、『第三者委員会』等の附属機関の設置に条例の根拠が必要か否かの判断基準を、地方自治法に関する学説やそれまでの裁判例を踏まえ定式化しています。
その基準によれば、『単なる情報収集の一環』ではなく、『意思決定過程に公式に組み込まれたもの』であれば、条例の制定が必要になります。
『単なる情報収集の一環』というのは、たとえば、委員の意見を集約してホッチキスで止めるだけのようなものをさします。
しかし、本件の委員会(1)はそうではありません。要綱をみると『目的』は、斎藤知事に関する内部告発を行ったとされる県民局長(故人)が告発文書を作成・配布した事案について調査を実施するため必要な事項を定めるとしています(1条1項参照)。
また、委員は『事実関係の究明、把握、調査、認定、評価』を行い、それに関する『報告書の作成』を行うと記載されています(2条参照)。
つまり、文書作成の経緯等に関し、専門的知見がある3名の委員が調査を実施して、事実がどうだったかを確定し、それを基に対処法を考えることが予定されています。
したがって、委員会(1)が行うことは、兵庫県における『意思決定過程に公式に組み込まれている』といえるので、条例により設置しなければならず、要綱により設置するのは違法ということになります」
知事による「委託」に基づく「調査」という扱いはセーフか?
斎藤知事が記者会見で「設置した」と主張している委員会(2)(3)については、条例の根拠がないのに加え、「要綱」さえ公表されていない。したがって、なおさら、地方自治法上の「附属機関」とは認められないことになる。
では、仮に委員会(1)(2)(3)を地方自治法上の「附属機関」と扱わず、単なる「委託」という形式で調査を行ってもらうならば、適法となる余地はないか。
幸田教授:「一般論として、統計データの収集等について民間の業者や専門家に『委託』をすることは条例の定めがなくても可能です。しかし、今回のような『パワハラ疑惑』『漏えい疑惑』等は、その場合とは本質的に事情が異なります。
『疑惑』について厳密に事実を調査し検証しようとするなら、しかるべき権限を付与した『附属機関』を設置する必要があると考えるべきです。
特に今回のような真偽不明の情報が飛び交い、誹謗中傷が行われているものについては、潜在性が高いので、厳密な調査が要求されます。
加えて、事態が発生した背景には兵庫県という組織の問題が介在している可能性があります。つまり組織風土や心理的安全性、風通しの良し悪しなどの実態についても踏み込んで、しっかりと検証する必要があります。
そういったことを調査するには、しかるべき権限を付与しなければ意味がありません。となると、単なる『委託』では足りないのはもちろん、『要綱』でもそのような権限を付与することはできません。調査権限を付与するため、条例により設置すべきです」
つまり、「第三者委員会」について条例の根拠がないと、委員会が実際に調査等の活動を行う上でもその権限の内容・範囲等についての裏付けを欠くので、実効性に乏しく、不都合をきたすことになる。
なお、斎藤知事は、委員会(2)(3)の調査結果を公表するかどうかも未定としていた。この点についても、幸田教授は調査の目的・意義にてらし、問題があると指摘する。
幸田教授:「『委員会』がまとめた報告書は当然、公表すべきです。なぜなら、調査の目的は、情報漏えいの原因を究明して検証し、それを前提として再発防止・予防の措置を講じることにあるからです。
個人情報保護法に基づき非公表とすべき部分はあるとしても、報告書全体を非公開にするのは、原因究明と検証、再発防止の観点から問題があるといわざるを得ません」

兵庫県庁(まきたまる/PIXTA)
日弁連の「指針」はあくまで“弁護士向け”のもの
本件については、県側から、日弁連の「地方公共団体における第三者調査委員会調査等指針」(以下「日弁連指針」)に沿って調査を進める方針が示されている。
そこで実際に「日弁連指針」を見ると、「第2 第三者調査委員会の設置、委員の地位」の項目に「地方公共団体が外部の弁護士等に対し対象事案の調査を委託する場合」が規定されている。この箇所だけ取り出せば、条例ではなく「委託」により設置したものも「第三者委員会」に含めて解してOKであるかのように読める。
しかし、幸田教授は、そもそもこの「日弁連指針」と、委員会(1)(2)(3)の違法性の有無の問題とは何の関係もないと指摘する。なお、幸田教授は「日弁連指針」の策定に関わっている。
幸田教授:「あくまで『日弁連指針』はそこに参画する弁護士に向けてその取り扱いを定めているものにすぎません。たとえば、対象となる事案に関して利害関係を有する場合には第三者委員会の委員に就任できない、といったものです。
『附属機関条例主義』の解釈や、『第三者委員会』がどのような権限をもち、行使していくのかについては、深く掘り下げて定めるものではありません。冒頭の『指針策定の趣旨』にも『地方公共団体における第三者調査委員会に弁護士が委員等として関与しその調査等を実施する場合において参考となる指針を策定した』と明記されています。
したがって、委員会が『日弁連指針に沿って調査を行う』ことは、何ら法的な正当化根拠にはなりません。また、知事が『第三者委員会』だと主張するのであれば、それにふさわしい対処がされる必要があります。そうでなければ、単に名称だけを便利に使っているだけということになります」
兵庫県の斎藤知事の「パワハラ疑惑」に端を発した様々な「疑惑」については、パワハラの事実の有無に加え、元県民局長に対する処分が公益通報者保護法に違反している疑い、一連の「疑惑」について調査する機関の法的根拠など、様々な法的問題が指摘される異例の事態となっている。
これらはすべて、首長や執行機関の恣意を排除し権力の乱用を防止するための「法律(条例)による行政の原理」「附属機関条例主義」といった地方における民主主義のあり方の基礎・根幹にかかわる問題である。斎藤知事には最低限、法律・条例を遵守すること、説明責任を履行することが強く求められるといえよう。