名刺交換は単なる挨拶ではなく、相手との関係づくりのスタート地点。しかし、多くの人がそのチャンスを活かしきれていません。プレゼンス・コンサルタントの丸山ゆ利絵氏が著書『一流のエグゼクティブが実践する 初対面から信頼関係を築く 第一印象の磨き方』(日本実業出版社)より一部を抜粋・再編集し、名刺交換のポイントを解説します。

信頼される名刺交換のポイント

名刺交換のマナーなんてもう知っている、と思う人は多いかもしれません。しかし私の体験では、初対面での信頼構築という目線で考えると、今ひとつだな、もったいないなと思う場面も少なくありません。

まず、名刺交換マナーのポイントをおさらいしましょう。名刺は正面・両手・胸の高さで渡すこと。人にものを渡すときの基本的所作ですね。また、差し出すのは「目下から」と心得ること。もともとあいさつは目下から目上に対して先にし、目上はそのあとにするものなので、謙虚さを尊ぶ日本人は自らを目下として先に名刺を差し出すのが順当です。逆に考えていると失礼な印象になるので気をつけてください。

いただいた名刺はすぐにしまわず、相手の情報を確認し合うのがルールです。しまうタイミングは相手と呼吸を合わせるよう見計らいます。そのまま打ち合わせに入るときには、ひと段落するまでテーブルに置いておくものとされます。

これらの名刺交換マナーは日本独特のもので、海外にはありません。日本では相手の名前の「精神性」を尊重するあまり、書状を渡す古来の所作が今のようなマナーにまで昇華されたのではないかという説があります。海外ではたいていの場合、名刺(ビジネスカード)はひとしきり自己紹介をしたあとで片手で軽く差し出すくらいです。

その海外から見れば、「なぜ日本ではお互い紙切ればかりを見つめて、相手を見ないのか?」と不思議がる声もよくあるそうです。日本国内では日本伝統の所作を大切にしたいですが、「相手を見ないのはおかしい」という指摘にもうなずけます。

実際、アイコンタクトもほとんどせず、視線が名刺にくぎづけなのが、冒頭で言った「今ひとつ、もったいない点」です。相手にていねいにものを渡す所作で相手に対する敬意を表せるのですから、それはそれとしてきちんと行ってください。ただ、それと同時にアイコンタクトでお互いを認め合い、お互いのドアを開くことも怠りなく。

POINT

名刺交換のマナーを押さえつつ、相手の目を見ることを忘れずに

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「親しみを感じさせたい」で失敗する人たち

ビジネスでの人間関係には一定の節度が必要ですが、距離がありすぎてはよりよい関係は築きにくいでしょう。その点で「親和性」つまり友好的でうちとけた雰囲気を醸し出すことも大切です。親和性はお互いへの関心や思いやりの感情を強める働きをし、それが信頼につながりやすくなります。しかし、親しみを感じてもらおうとするあまり、勘違いした行動になると逆効果になりかねません。あなたは大丈夫ですか?

勘違いした行動をとる人は、信頼を得やすい親和性と信頼を失う馴れ馴れしさや無礼な態度とをはきちがえている可能性があります。

心理学的に、人には侵されたくない物理的・精神的領域があり、そこに他者が不用意に踏み込むと不快や不安、警戒心を本能で感じるとされています。これは「パーソナルスペース」と呼ばれ、人との適度な距離感とはこれに配慮することなのです。

パーソナルスペースは人同士の親しさで変わります。ですから、ごく親しい間柄なら、多少の馴れ馴れしさや無礼な態度もまた親愛の表現になり得ます。しかし、通常のビジネス関係ではまず歓迎されません。

信頼を得やすい親和性を醸し出したいと思うなら、相手に対してなごやかで誠実な態度を示し、ことさらに距離感を意識しなくてもいいくらいの安心感を持ってもらうことを考えることです。それには相手を緊張させすぎず、一方で適切な敬意を感じさせる態度が重要です。

よく見る「馴れ馴れしい」または「無礼」と思われがちな勘違い行動は、相手の側に近づきすぎたり、肩や腕にさわったり、友達のようにタメ口で話したりすることです。いきなりのプライベートな質問も精神的領域を侵す行為です。

やっている本人はフレンドリーでいるつもりでも、相手からすると不快を感じて無意識に警戒や反発を覚える可能性が高いのです。この点、外部の人に対してだけでなく、内部の人に対しても気をつけないと、自分でも気づかないうちに信頼が失われてしまいます。

POINT

信頼を得る親和性と信頼を失う馴れ馴れしさを勘違いしない