長男が親と同居し、家を継ぐ。古くからの日本の家族の形は、現代でも色濃く残っています。しかし、いざ相続の時を迎えると思わぬ落とし穴があることも。本記事ではAさんの事例とともに、きょうだい間の相続トラブルについて社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。

両親と同居していた、独身の長男

Aさんは3人兄弟の末っ子。両親は、父が大手企業の部長職まで勤めあげた生粋のサラリーマン、母は短大卒業後からずっと専業主婦でした。「夫が外で働き、妻が家庭を守るべき」という典型的な昭和の家庭。古風な考え方の両親は「家を継ぐのは長男」と常々口にしていました。その思いに応えるべく長男は両親との同居を選びました。

Aさんの10歳年上の兄(長男)は現在65歳。人当たりのいい真面目で誠実、控えめな性格です。そのためか、両親に反抗することもなく、幼いころから両親にいわれるがまま。父の望んだ大学に進学し、就職をしました。結婚する機会があったものの、両親との同居が必須だったことから婚姻を断られた経緯があり、その後は縁がなく独身です。

次男、三男は…

Aさんは父の家父長制の考え方についていけず、就職してすぐに家を出て結婚し、家庭を持ちました。2番目の兄(次男)も父の考えに反抗し、Aさんと同じく離れて暮らすことで、関係性を悪化させることなく過ごしていました。そのため、両親のことは長男である兄に任せきりです。兄も特段なにもいわなかったため、Aさんも次男もあまり気にせずにいました。

正月やお盆の時期になるとAさんと次男は、実家に顔を出します。当たり障りない世間話的な会話をして帰る――Aさんは「家族だから他人よりよく知っている存在だけれど、理解し合うことはできない」そんな風に割り切って考えており、自分で築いた目の前の家族を大切に、実家のことには踏み込みすぎないようにしていました。次男も同じ気持ちだったのかもしれません。

両親が75歳を過ぎたころ、「自分たちが亡くなったときは、自宅を長男に継がせるつもりだ。ほかの財産についても遺言書に書いてあるから、兄弟でもめることがないように」と話されました。Aさんは「やっぱりか。兄弟で争うことはなさそうだからよかった」と安心します。

以前、母から「父は自宅以外にも億単位の財産を持っている」と聞いたことがありました。Aさん自身はあまりお金に執着がありませんでしたが、万が一のときには相続財産があれば、教育費などで貯蓄が減った分を補えるかもしれないと漠然と考えていたのです。

(広告の後にも続きます)

父が亡くなり、母も追うように他界

Aさんの父は90歳のとき、誤嚥性肺炎で亡くなりました。母も、父が亡くなった翌月に心不全で他界。父の葬儀が終わったばかりで落ち着く間もなく、今度は母の葬儀が続き、遺言書のことを考える余裕がありませんでした。

母の葬儀が終わり、やっと兄弟でゆっくり話せるというときに遺言書のことを思い出し、自宅を探すことに。しかし、なかなかみつかりません。

すると長男である兄が、「みつからなければ、3人で均等にわけよう」というのです。生前両親がいっていた遺言書のとおりにわければ、長男からすると、自宅は自分のものに加え相応の財産が入ってくるはずです。Aさんは「それでは兄(長男)が損をするのでは?」と不思議に思いました。

結局後日、公正証書遺言が発見されました。一緒に中身を確認するため、3兄弟は再び集まりました。いよいよ開封というとき、ふと兄が汗をかいていることにAさんは気付きます。心なしか呼吸も荒いようです。「どうしたのだろう。具合が悪いのか?」と心配していましたが、遺言書に記載されていたのは、驚きの内容でした。