日本では「新卒採用」が根強い人気を誇ります。その背景には、中途採用で集めた人材をマネジメントすることが難しいため、何も知らない新卒を自社の文化に染め上げようという意図があると考えられます。このような、昭和時代から変わらない採用方法には、果たしてどれだけのメリットがあるのでしょうか。今回は、サーチ・ビジネス(ヘッドハンティング)のパイオニアである東京エグゼクティブ・サーチ(TESCO)代表取締役社長の福留拓人氏が、新卒採用からの「完全撤退」という選択肢について、詳細に解説します。

新卒採用をやめるという選択肢

「いっそのこと思い切って新卒採用をやめてみてはいかがでしょうか」

最近、顧問先の企業に対して、このようなストレートな提言をさせていただくことが増えてきました。逆説的ではありますが、その理由について考えていただくことも意義があると考えています。

このところ、大手企業を中心に「新卒の初任給を大幅に引き上げる」という情報がニュースなどでよく報じられるようになりました。メディアで取り上げられている背景には、主に次の2つの要素があります。

①少子化に伴う猛烈な人材獲得合戦を勝ち抜くために、純粋に処遇を上げてアピールする。

②入社後一定期間(3年以内)の退職が非常に多く、それを引き留めるため。

前回のコラムでも触れたように、新卒初任給引き上げの本質的な狙いは、雇用流動性の上昇に備えた機動的な人事評価制度の導入です。その第一歩として、新卒給与の引き上げが実施されており、将来的に企業が相当シビアな決断を下していく可能性が高いと考えています。

日本において、ブランドやネームバリューを持つ一部の大手企業が先行してこれを実行している中で、大半の中堅・中小企業はこれに追随するのが難しい状況です。新卒に高い初任給を出したくても、それを可能にするだけの利潤を上げられない企業が多いのが実情です。

コロナ禍で受けた特別融資の返済がままならず苦しんでいる企業が統計上多いこともあり、中堅・中小企業は「出したくても出せない」という状況にあります。それでも日本の新卒採用(定期採用)は、日本固有の文化のごとく根強く残り、多くの企業がこれに依存しています。

中途採用で経験豊富な人材を集めても、マネジメントが難しく、企業文化に染まらないという課題があります。だからこそ、昭和時代から続く「新卒を自社の文化に染め上げたい」という固定概念が根強く残っているのです。

しかし、最近のデータによると、新卒就職者の3年以内の離職率は約30%に達しています。また、新卒一人を採用するためにかかるコスト(採用担当者の人件費、面接担当者の費用、採用セミナーの実施など)を合算すると、一人当たり1,000万円近いコストがかかると言われています。

(広告の後にも続きます)

中堅・中小企業が「第二新卒」の採用と運用へのシフトを検討すべき理由

さらに、1年目の新卒を育成するために必要なコスト(研修費用、OJTにかかる先輩社員の人件費、給与など)を考えると、2,000万円を超える可能性があります。もしその新卒が3年以内に退職した場合、その投資が回収できるのでしょうか? 離職率が高い中堅・中小企業であれば、さらに厳しい状況が予想されます。

企業がいくら努力しても、3年以内の離職率が下がるどころか、むしろ上がる傾向にあります。従来の新卒採用は、メリットよりもデメリットが大きくなっているのではないでしょうか。

そのため、ブランド力を武器にできる一部の大手企業を除き、新卒採用から完全撤退する選択肢も十分にあり得ると私は考えています。アメリカのインターンシップのように、最初から仮説を立て、業種を絞り込んで採用活動を行う方法が有効です。

また、採用活動の全力を「第二新卒」に振り向け、他の会社から流出してきた準新卒をターゲットにするという方法も一つの賢い選択だと思います。若い世代の転職へのハードルが下がっているとはいえ、一つの会社を早期に辞めることは、本人や家族にとって一定のストレスが伴います。

辞めぐせがつく前に、次の職場で自分の力を発揮したいというモチベーションを持つ若者がいるはずです。企業が「前回の失敗から学んでいる」という点を理解できる若者を迎え入れることで、離職リスクを下げることができるはずです。

しかし、日本人は「自分が周囲と同じであれば安心する」という文化を持っています。みんながやっているから私もやろう、みんながやらないなら私もやめておこうというのが基本姿勢です。これは自信のなさの表れでもあります。そのため、企業が新卒採用を廃止する決断は、簡単にはできないことかもしれません。

第二新卒の採用コストは瞬間的に高くなることがありますが、育成を含めた間接コストは、大学3年生と接触するよりも抑えられることが多いです。第二新卒をターゲットにした採用活動を行う企業は少ないため、中堅・中小企業でも十分に競争力を発揮できます。この点において、メリットが大いにあります。

過去5年分のデータを分析し、新卒の定着率や活躍実績に問題があると判断できる場合、思い切って新卒採用から切り替えてみるのも一つの方法です。現在進行中のプロジェクトを一斉に見直し、第二新卒の採用と運用にシフトしてみる価値は十分にあります。このような施策を試みることで、新たな活路を見いだす企業が増えるのではないでしょうか。

福留 拓人
東京エグゼクティブ・サーチ株式会社
代表取締役社長