
遠方に住まう親。様子は気になっても、頻繁に直接顔を合わせることはそう簡単ではありません。しかし小さな変化を見逃してしまうと、のちに大惨事となることも。本記事ではAさんの事例とともに、離れて暮らす高齢親の注意点について社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
遠方の父が電話で衝撃告白
Aさんは地方の田舎から都心に上京した55歳の高校教師です。都内の教育系大学を卒業して以来、高校の教壇に立ち続けて32年。ベテラン教師の域に達した年数ではありますが、教育現場は多種多様化しており、生徒の進学や学校生活の充実を常に考え、対応に追われる毎日を過ごしています。
一人っ子のAさんの出身である田舎には両親が住んでいましたが、5年前に母が他界、78歳である父が一人で暮らしていました。遠方であるため、日々の忙しさから帰省することが難しく、Aさんが帰省するのは年に1回あるかないか。たまに電話で話をする程度でした。
半年前、いつものように父に電話で近況を尋ねると「事後報告になるんだが、実は……」と衝撃の事実を聞かされます。なんと、台所のガスコンロをつけっぱなしにしてしまい、火事を起こして近所の方に消防へ救急連絡をしてもらう騒ぎになってしまったそうです。幸いボヤで済み、父も軽い火傷を負っただけとのこと。しばし唖然となったAさんでしたが、「しっかりしてくれよ! 危ないところだったのに、どうしてすぐにいわなかったんだ」ときつめの口調で問いただすと、父は「いいづらくて……」と小さく答えました。つけっぱなしにしてしまった理由はスマホゲームに夢中になっていたからだというので、Aさんはさらに驚きます。
それまで、子の立場からみた父に大きな変化を感じることはありませんでしたが、これを機にAさんは「父さんももういい年なんだ」と実感しました。そこで、実家の近所の方に父の様子を定期的にみにいってもらえないか頼んだところ、快く承諾してもらえました。
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受験シーズンに父が他界
そんなある日、父の世話等をお願いしていた方から1本の連絡が入ります。「お父様が心筋梗塞でお亡くなりになりました。自分は風邪で1週間ほど寝込んでいたため、発見が遅くなってしまいました」というのです。
急ぎ帰省し、警察署に行ったり葬儀を執りおこなったりと慌ただしく済ませ、東京の自宅に戻りました。実家の片付けもしなければと思いましたが、実父が亡くなったのは11月。この年は3年生の担任をしていたことから、これから大学等の受験シーズンに入り、受験相談や精神的にサポートが必要になる時期のため、実家に行く機会が取れません。年末に帰省し、ある程度終わらせなければと考えていました。
遺品整理で判明した衝撃事実
父は田舎で小さな食堂をしていました。個人経営だったので、年金は国民年金のみ。繰下げしても月額9万円程度では生活が苦しく、店を閉めるまでに貯めた貯蓄を取り崩して生活をしていました。
晩年の父は長年連れ添った母を亡くし、寂しく過ごしていました。それでも新しいものずきで少しミーハーなところのあった父は、70代にしてスマートフォンデビュー。投資に挑戦してみたり、好きな麻雀ゲーム等をしたりして一人でも好きなことをして楽しんでいたようです。ですが、スマホ遊びは母が亡くなってからはじめたようで、投資は初心者であり、ゲームの課金等、知らず知らずのうちに使い込んでしまう恐ろしさを理解しないままつぎ込んでしまっていたことが年末の遺品整理でわかりました。
さらに、亡くなる半年前に起こしたボヤ騒ぎの修繕費用100万円も払い終わっていないことが判明します。当然、火災保険から補償がおりたと思っていたのですが、値上げのタイミングで解約しており、未加入状態だったのです。
Aさんは今後も東京に住み続ける想定で、父の住んでいた実家にAさんが戻るという選択肢はありません。そのため、不動産業者へ売却の相談に行きました。父は家の中で亡くなりましたが、病死のため事故物件になることはありません。しかし過疎地域であるため、なかなか売却することができませんでした。
時間はかかったものの、実家は古い建物だったため、解体して更地にすることで売却することに。結局、土地を売却しても解体費等で150万円ほどかかりました。負の遺産が大きくなってしまい、本来なら相続放棄したほうがよかったことものちにわかりましたが、相続放棄ができる「相続開始を知った日から3ヵ月以内」という期間は過ぎてしまっていました。
「死ぬ時期は当然選べませんが、タイミングが最悪過ぎて本当に大変でした。住宅ローンや娘の教育費もあって家計はカツカツです。支出を増やすわけにはいかないのに……」Aさんは自身の生活もあるなか、負の遺産を背負うことになってしまい、途方に暮れています。