銭湯で性的暴行容疑・中孝介氏は“現行犯”逮捕でも完全否認…「えん罪の可能性はある」刑事弁護士が指摘するワケ

歌手の中(あたり)孝介氏(44)が、3月28日、銭湯で面識のない男性に性的暴行をしたとして警視庁に逮捕された。

NHKなどの報道によれば、中氏は3月28日午前2時ごろ、東京・品川区の銭湯で椅子に座って寝ていた面識のない20代の男性に性的暴行をした疑いが持たれている。気づいた被害者の男性が中氏を取り押さえ、銭湯の従業員が110番通報したという。

一方、被疑者となった中氏は調べに対し「全く身に覚えがない」と容疑を否認している。

「現行犯逮捕=犯人」ではない?

このような現行犯逮捕の報道を見聞きすると、逮捕された人物が“犯人”であるかのような印象を受ける。

しかし、刑事事件に多く対応する杉山大介弁護士は「現行犯逮捕されたけれども『冤罪』だったというケースは、わりと普通にあります。

たとえば満員電車で痴漢に遭った方が、犯人だと思って間違った人の手をつかめば、現行犯だけど冤罪のパターンが簡単に生まれます」と事件に対する反応や捉え方には充分な注意が必要と話す。

今回の事件をめぐっては、時事通信社などが〈浴場内には中氏と男性の2人しかいなかったという〉と報じている。浴場の監視カメラ設置の有無については判明していないため、実際に何が起きたのかは当事者のみが知っている状況だ。

「2人だけだったという部分が事実であるなら、人違いといった犯人性の否認は難しいでしょうが、そこも本当に確定しているのかわかりません。

証拠において主となる、あるいは唯一の重要なものとなるのは、相手の男性の証言でしょう。それがわからないうちには、第三者には今後どうなるか何も推察できません」(杉山弁護士)

SNS上の批判や嘲笑に法的リスクは…

被害者とされる男性が警察にどのような供述を行ったかは報じられておらず、中氏が事件への関与を「否認」しているため、詳細については、捜査機関の発表を待つほかはない。

ところが、中氏について、“認否が明らかになる前”から事件に関する情報が速報的に報道され、SNS上でも大きく拡散された。また、中氏のものとされる“裏アカ”もさらされ、揶揄されるなど“延焼”した。

「被疑者」の段階にある人物を「犯人」扱いし、SNS上で批判や嘲笑したりする行為には、何らかのリスクは伴うのだろうか。

また、仮に中氏が不起訴、あるいは無罪となった場合、犯人と決めつけ投稿・拡散を行った当事者が、中氏から名誉毀損などで訴えられる可能性はあるのだろうか。

杉山弁護士は理屈上では訴えられる可能性はあるとしながら、これまで冤罪被害者から同様の訴えがなかった理由を述べる。

「まず、報道機関や個人が『捜査機関の情報を信じて拡散したこと』に違法性が認められるかは、ノーコメントとしておきます。名誉毀損の構成要件にはあたるものの、『真実だと誤信したことに相当な理由がある』として、違法性を否定される可能性もあるでしょう。ただ、多くの事件で本当にそうなのか、そもそも試されてないところがあります。

冤罪被害者としても、犯罪の疑いをかけられたこと自体『すぐに忘れたい』と考えるので、なかなか訴えることはしません。

そのためメディアは捜査機関の情報を一切裏取りすることなく垂れ流し、平然としているわけです」

被疑者の「否認」どう受け止めるべきか

その上で杉山弁護士は、否認事件であっても「実名報道」するメディアの姿勢に異議を唱えた。

「中氏のような著名人は顕著ですが、一般人でも否認しているのに、あるいは事実がなにも固くないのに実名で報道されることはよくあります。実名かそうでないかは警察とメディアの裁量です。

直近だと広末涼子氏も、警察から取り調べの様子などが、まるで見せ物かのように漏洩し、本人が反論する機会もないまま、メディアに垂れ流されています。

その結果、SNSなどでは、本人の不安定な様子を面白がったり、検査前から薬物疑惑があったかのように扱われています(※4月10日、警察は広末氏から覚せい剤などの違法薬物などは検出されなかったと発表した)。

取り調べの様子を漏らしている警察も、何も自己調査せずにそのまま垂れ流している報道関係者も、後から異なる事実が明らかになったとしても、組織の看板の陰に隠れて、後から責任をとることはありません。

刑事弁護士としては、被疑者であるというだけで、その人の人権がないがしろにされている現状を憂慮しています」

所属事務所によれば、中氏は現在も勾留され、否認を続けているという(4月10日現在)。