
国税庁の税務調査実績によると、個人(個人事業主)が調査を受ける確率は0.5~1.0%、会社や法人は2%ほどとなります。この確率を高いと感じるか低いと感じるかは人それぞれですが、税務調査の対象となった人が口をそろえて言うのは「まさか自分が」というセリフです。誰もが対象となりえる税務調査のポイントについて、具体的な事例をもとに詳しくみていきましょう。
不労所得で悠々自適な老後を満喫していた大家だったが…
現在70歳のAさんは、神奈川県内に1棟のアパートを保有する大家です。保有するアパートの1室で5歳年下の妻と2人で暮らしています。またA夫婦には35歳になるひとり息子がおり、息子夫婦とその子どもは隣室に住んでいます。
そんなAさんの楽しみはアパートの周りを掃除することと、息子家族と過ごす時間です。また、年に1度は妻と息子家族を連れて旅行へ行くなど、月7万円の年金と月35万円ほどの家賃収入で悠々自適な老後を満喫していました。
ある日、自室でくつろいでいたAさんのもとに税務署から1本の電話が入りました。聞けば「税務調査に伺いたい」といいます。
「いきなり税務調査って……突然私になんの用だ?」
突然の連絡に新手の詐欺を疑ったAさん。一度電話を切って電話番号を調べてみたところ、どうやら相手は本物の税務署のようでした。特に思い当たる節はなかったAさんでしたが、拒否する理由もなく素直に受け入れることにしました。
そして税務調査当日。
「取り調べのような雰囲気だろうか……」
初めての税務調査にソワソワしていたAさんでしたが、現れた2人組の調査官は思いのほか穏やかな雰囲気です。
調査は和やかな雑談からスタートし、Aさんも徐々に緊張がほぐれてきました。
調査官「このお茶、美味しいですね」
Aさん「そうでしょう~。静岡の親戚からいつも送ってもらっているんです」
調査官「そうなんですね! そう聞くと、たしかに本場の味がします(笑) このお部屋もなんだかピカピカですね。まるで内装を新調されたようだ」
Aさん「ええ。こないだここの外壁の塗装をお願いしたときに、貸している部屋と私たちの部屋の内装リフォームも一緒にやってもらったんですよ。とても築40年には見えないでしょ? ハハハ」
Aさんは雑談のつもりで調査官の質問に正直に答えていましたが、この結果、Aさんに多額の追徴税が課されるハメに。
税務署はいったいなぜAさんに狙いを定め、またなぜAさんに追徴税が課されたのでしょうか?
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いったいなぜ…Aさんに追徴税が課された理由
Aさんが今回の税務調査で指摘を受けた項目のなかで額が大きかったのは「修繕費」でした。
Aさんが所有する賃貸物件は築40年の物件。1年ほど前、外壁の汚れが目立つようになったため、業者に依頼して外壁の塗り替え工事と室内のリフォーム工事を行ったといいます。
合計で3,000万円ほどかかった工事代金を、Aさんはすべて「修繕費」として計上。これが認められないということでした。
なぜ「修繕費」が認められないのか?
税務署によると、3階建ての物件のうちA夫婦と息子家族のための居住用として利用している3階については、経費としては認められないというのです。
また、乗用車についても減価償却費を100%必要経費として申告したAさん。
実は調査官に「かっこいい車ですね」と褒められた際、「そうでしょう。まあでも実際に使うのは孫の習い事の送り迎えくらいのもんですがね(笑)」と答えてしまっていたのでした。
さらに調査の結果、Aさんは個人的な飲み食いの費用も必要経費に算入していたことが判明。最終的に、Aさんが計上した必要経費は大幅に否認されることとなってしまったのです。