税理士という仕事をしていると、税金に関する様々なご相談があります。中でも毎年「事前にご相談いただいていれば…」と思うことにも遭遇します。贈与や相続に関する税金には、一般の方には分かりにくい税法上のルールが存在し、思わぬ課税が発生することも。今回はそういった、税金の「こんなはずじゃなかった」お話をご紹介します。

売れない土地をタダで提供したのに税金が!?

【相談内容】土地を無償提供、税金はどうなる?

父が令和6年8月に他界しました。母はすでに他界しており、私は一人っ子です。父の自宅は福岡にあり、私は東京に在住しています。父の自宅は売却したのですが、父が同じ町に100平米くらいの土地を所有していました。いびつな形の土地なので、売るにもなかなか売れません。

毎年固定資産税を納めており、草刈りなどの管理も困っていたため、翌年の令和7年2月に、土地の隣にある建設会社に資材置き場として無償で提供することにしました。この土地は先祖代々受け継いできた土地で時価にすると100万円です。無償で土地を提供したので特に税金などはかからないと考えていますが、何か問題があるでしょうか。

【回答】所得税の確定申告が必要

ご相談者は、翌年の3月15日までに土地を建設会社に売ったものとみなされ、所得税の申告が必要です。所得税と住民税合わせて19万2900円を納めることとなります。

なぜタダで提供したのに税金を納めなくてはならないのか。個人が個人に財産をあげることを「贈与」と言います。今回のケースは、個人が建設会社(法人)に土地をあげたため、個人対個人ではなく「個人対法人」となります。そうすると税金の世界では贈与税の対象ではなく、所得税法が関係してきます。

つまり相談者は、法人に土地をタダであげた(贈与)という認識でも、税金の世界では法人に「土地を売ったとみなす」とされるのです。

税法の考え方の中には、「みなす」という考え方がたくさんあります。「みなす」とは、例えば「りんごをバナナとみなす」とした場合、りんごはバナナになってしまうのです。実際には売っていない(譲渡していない)けれど税金計算上、公平に考える必要があるため、売ったこと(譲渡したこと)にして計算することを「みなし譲渡」と言います。

税法では、今回の土地をあげた行為について、次の流れがあったと考えます。

相談者は、建設会社に土地を時価100万円で売った。
土地を売ったお金100万円を相談者は受け取った。
相談者は、そのお金100万円を建設会社に寄附した。

相談者が建設会社に寄附をしたことで相談者の手元にお金は残っておらず、その寄附金は、税金の世界では必要経費にならないため、結果的に相談者は土地を売った、ということになります。

(広告の後にも続きます)

時価より安く土地を売れば節税になる?その誤解に注意! 


注意
【画像出典元】「stock.adobe.com/VZ_Art」

このご相談者は19万2000円の税金に納得がいかず、続けて次のようなご相談がありました。

【相談内容】土地を1万円で売ったことにすれば、税金が少なく済むのでは?

土地をタダであげると「みなし譲渡」となり、無償で提供したにも関わらず、土地を売却したものとみなされて所得税がかかるのなら、この土地を1万円で建設会社に売ったことにすれば、税金が少なく済むと思うのですがどうでしょうか。計算してみると、1万円で土地を売った場合の税金は、所得税と住民税で1900円のようです。

【回答】税法上では時価100万円の売却とみなされる

残念ながら土地を1万円で売ったとしても、税法では時価100万円で売ったと考えるため、19万2900円の所得税・住民税の納税となります。

このようなケースでは、土地をもらった建設会社側も注意が必要です。土地を無償または安価で受贈した建設会社(法人)は、時価100万円する資産を無償または安価で手に入れたことになるため、その得をした部分は法人の儲け(所得)として、法人税の課税対象となります。

建設会社(法人)に対する税法の考え方

時価100万円の土地を無償で受贈した場合
時価100万円-取得額0円=法人の所得100万円
時価100万円の土地を1万円で取得した場合
時価100万円-取得額1万円=法人の所得99万円

今回のケースを事前にご相談いただければ、筆者ならばこの土地の贈与を法人に行うのではなく、法人の「社長さん個人」にすることをおすすめします。そうすると、個人から個人への贈与となり、贈与税の対象となります。

贈与税は年間110万円まで非課税ですので、時価100万円の土地の贈与であれば、非課税の範囲内で土地を贈与することが可能です。法人の社長さんが自らの会社へ、その土地を無償(タダ)で貸しても、税法上は一定の手続きを行えば課税は生じません。
※税理士により見解が異なることもありますので、事前に税理士へご相談ください