FPが指摘する「4%ルール」の盲点
どうしても息子の考えが理解できない石川さんは、ファイナンシャル・プランナーの永瀬財也さん(仮名)に相談しました。
「息子さんはおそらく、FIREの『4%ルール』に基づいて計算されたのでしょう」と永瀬さんは切り出しました。これはアメリカ発祥の考え方で、資産の50〜75%程度を株式に、残りを債券に投資し、毎年4%ずつ取り崩せば資産は尽きないとされるものです。
4%の根拠は米国市場の過去の平均成長率(年約7%)からインフレ率(約3%)を引いた数字で、必要資金は年間生活費の25倍。年240万円で暮らすなら6,000万円という計算です。
「理屈は明快ですが、落とし穴がいくつもあります」
永瀬さんの説明はこうでした。まず、4%ルールは米国市場の過去データに基づく経験則であり、為替や低金利など日本固有のリスクを踏まえれば、そのまま適用できるとは言い切れません。
また、リタイア直後に暴落が来ると資産が一気に目減りする「収益率の順序リスク」も見逃せません。年2%のインフレが30年続けば購買力はおよそ半分に落ちます。
さらに、退職直後の負担増も見落とされがちです。会社員時代は健康保険料の半分を会社が負担していましたが、退職後は国民健康保険に切り替わり全額自己負担になります。しかも保険料は前年所得で計算されるため、退職翌年は高額の請求が来ます。住民税も同様です。
加えて、60歳まで国民年金保険料(月約1万7,000円)の納付義務があり、37歳から23年間で約470万円。これらが計画に織り込まれていなければ、資産の目減りは想定以上に早まります。
そして最も深刻なのが受け取る年金への影響です。
「息子さんが厚生年金に加入していた期間は15年。会社員時代は高収入でしたが、加入期間が短ければ受給額も少なくなります。国民年金保険料を60歳まで払い続けても、将来の年金は月約12万円ほどでしょう。40年勤めた場合と比べれば、相当大きな差がつきます」
老後資金が足りなくなった場合の「最も怖いシナリオ」
永瀬さんはここで、最も怖いシナリオを示しました。
「資産が想定通りに持たなかった場合、息子さんが年金を早く手に入れるため、繰上げ受給を選択する可能性もあるでしょう。しかし、これは最悪の選択になりかねません」
繰上げ受給は1ヵ月あたり0.4%の減額が一生続きます。60歳開始なら24%減で、月約12万円の年金が約7.6万円にまで下がり、いったん受給を始めると取り消せません。
繰上げのデメリットはそれだけではなく「年金の保険機能への影響もあります」と永瀬さんは続けます。
公的年金には障害年金・遺族年金という保険機能もあります。障害年金は、発症時(初診日)に何の年金に加入していたかで金額が大きく変わります。在職中(厚生年金加入中)なら月約15~16万円ですが、FIRE後なら月約7万円(いずれも非課税)。
さらに、老齢年金を繰り上げると障害基礎年金も障害厚生年金も原則請求できなくなります。将来の配偶者が受け取るはずの寡婦年金も消滅します。
「減額された年金で暮らしながら、大きな病気や事故に遭っても障害年金が使えない。意外と知られていませんが、これは繰上げ受給の裏側にある大きなリスクです」
