売却後に起きた問題
買収した企業は、すぐに経営方針の見直しを行い、勤務時間の変更、評価制度の変更、業務フローの見直しに着手した。だが、これにより、ベテラン従業員の一部が退職してしまったのである。
「こんな結末は、想定外だ…」
実情を知った相川氏は思わずつぶやいた。
M&Aというと、どうしても「いくらで売れるか」に目が行きがちだ。しかし実際には、「従業員が残るか」「顧客が継続するか」「組織が維持できるか」といった条件のほうが、中小企業のM&Aでは、重要になるケースが多い。
また、仲介会社は構造上「成約」に重きを置くことになる。成約したときにはじめて売上が立つ成功報酬だからだ。
そのため、M&Aの相談をするのであれば、すでに面識があり、できれば会社の財務を普段から見ている、例えば中小企業診断士や経営コンサルタント、顧問税理士に相談しながら取引を進めることが望ましい。
信頼できる専門家から、セカンドオピニオン、財務・税務・法務DD(デューデリジェンス=監査)、条件の整理といった後方支援を受けることで、意思決定の質を高めることができる。
適切な専門家が見当たらない場合は、下記の条件をなるべく多く満たす経営者仲間に相談することで、適切な助言や専門家の紹介を受けられるだろう。
条件① 決算書が読める
条件② 守秘義務が守れる
条件③ 取引上の利害関係が少ない
条件④ 直近3ヵ月で1回は顔を見ている
条件⑤ M&Aをしたことがある(売り手側でも買い手側でも)
条件⑥ 親友以下、他人以上(親族や親友など、過度に感情移入しない人)
あるいは、事業承継引継ぎ支援センターというM&Aに特化した公的機関も各都道府県に設置されているので、ぜひ活用してほしい。
まとめ
相川氏の事例は決して特殊なものではない。中小企業のM&Aでは、売れるか、いくらになるか以上に、どのように引き継がれるかが重要になる。
まずは、仲介会社任せにせず、M&Aに知見のある顧問税理士などの士業専門家や経営者仲間、公的機関に相談することが、成功(納得できる)確率を上げる大きなポイントになるのだ。
※ 本文の記事は実例を基に記載していますが、守秘義務の観点からエリアや個人名などは適宜変更しています。
都 鍾洵
税理士
