
45歳で大手企業を飛び出し、自身のキャリアアップを信じて転職したHさん(65歳・男性)。しかし現実は甘くなく、転職を繰り返すうちに給与は下がり、もらえる年金は月12万円に。そんなある日、定年まで会社に残った同期たちと居酒屋で再会。同じスタートラインに立っていたはずの彼らとの間に生じた格差とは。元エリートサラリーマンの後悔と、年金制度の現実を見ていきましょう。
キャリアアップを信じた転職が「格差」の始まり
「まさか、年金だけで生活できないなんて。働き続けざるを得ないという状況に、むなしさを感じます。こんなはずじゃなかったのに……」
都内の古い賃貸アパートで一人暮らしをしているHさん(65歳・男性)は、週に4日、オフィスビルの清掃員として働いています。
独身のHさんが受け取り始めた年金は、月に約12万円。それだけでは家賃や生活費を賄えず、アルバイトの収入を足して何とか食いつないでいる状態です。
Hさんはかつて、誰もが知る大手メーカーで働いていました。営業成績も優秀で順調にキャリアを重ねていましたが、45歳のときに「自分の力をより厳しい環境で試したい」と考え、立ち上げ間もないIT系のベンチャー企業へ転職。
しかし、新しい挑戦は思い描いていたようには進みませんでした。転職先の業績悪化などにより、その後はいくつかの中小企業を渡り歩くことになります。
「転職の合間に国民年金しか払ってない時期もあったし、給料もどんどん下がっていって……」
独り身の気楽さも相まって生活水準を落としきれず、気がつけば十分な老後資金を準備できないまま、65歳の年金生活へと突入してしまったのです。
定年まで残った同期に「歴然たる差」を見せつけられ後悔
Hさんが自分の過去の決断を心から悔やむようになったのは、とある飲み会の夜でした。かつての大手メーカー時代の同期数人から「みんな65歳で完全にリタイアしたから、久々に飲もう」と誘われ、都内の居酒屋へ出かけました。
久しぶりの再会に最初は話が弾んでいましたが、話題が定年後の生活や年金のことになると、Hさんは徐々に口数が少なくなっていきました。
「みんなが『これからは自由だ!』と笑い合っている姿を見て、ショックを受けました。最初は同じスタートラインに立っていたはずなのに、自分の年金は彼らの半分程度だったんです」
定年まで会社に残り、役職を務めあげた同期たちは、充実した退職金を受け取り、持ち家の住宅ローンも完済していました。さらに、彼らが口にした年金の受給額は、月に20万円から23万円程度。たまの旅行や趣味を楽しむには十分な額です。
「自分は貯金も持ち家もない。あのとき、なんで会社を辞めてしまったのかと後悔しています……」
飲み会がお開きとなり、満足げな同期たちと別れたHさん。自宅へと一人歩く帰り道、「転職なんてするんじゃなかった」という後悔が頭をよぎりました。
自分の人生の選択肢に責任を持つのは当然だと頭では理解していても、40代で会社を飛び出した自分と、定年まで働いた彼らとの「年金受給額の差」を思い出すたび、胸の奥がざわつくそうです。
