病床で妻が口にした「生まれ変わったら…」
この1ヵ月間の旅は、ただの一過性の思い出づくりには留まりませんでした。帰国後、24年間にわたる夫婦の生活のなかで、ヨーロッパでの出来事は幾度となく会話のネタになりました。
「テレビで現地の風景が映るたびに、『あのとき道に迷って大喧嘩したわね』『パンクを直してくれた親切な人がいたね』と話していました。楽しいことも苦い経験も、すべてが私たち夫婦の24年間を彩る大切な宝物になったんです」
Nさんの妻が病床に伏してからも、二人は旅の思い出を語り合いました。そして、ベッドの上で、Nさんにこう微笑んだといいます。
「生まれ変わってまた夫婦になったら、今度はアメリカを横断しましょうね」
その言葉を聞いて、Nさんは涙が止まらなかったと振り返ります。もしあのとき、将来への漠然とした不安からお金を使わず貯め込んでいたら、これほど豊かな時間を共有し、笑顔で語り合える最期を迎えることはできなかったでしょう。
「確かにお金は大切です。でも、経験にお金を使ったからこそ、私たちは何にも代えられない素晴らしい時間を手に入れられました。だからこそ、同世代の人たちにも『元気なうちに旅に出てほしい』と伝えたいです」
お金も時間も「今の自分の経験」に使うシニアが増加
Nさんの事例のように、お金をただ貯め込むだけでなく、有意義な経験に使うことで人生の満足度を高めるシニアが増えつつあります。
株式会社ハルメクホールディングスが発表した「お金に関する意識・実態調査」によると、今後のシニア層の消費動向として「お金も時間も(キャンセルせずに)自分に使うシニアが増加」していることが指摘されています。
物価高などによる将来の不安から節約志向が高まる一方で、「イマ活」や「ご自愛消費」といった言葉に代表されるように、今の自分の楽しみや経験に対しては積極的にお金を使うというメリハリのある消費行動が広がっているのです。
老後資金への不安は誰にでもあります。しかし、健康で体力があるうちに、旅行や趣味など、夫婦の絆を深める「思い出づくり」に投資することは、将来の豊かな会話や心の平穏という、目に見えない大きなリターンをもたらすでしょう。
お金を「使うべきタイミング」で見極め、かけがえのない経験に変えていくこと。それこそが、後悔のない老後を送るための一つの答えといえるのではないでしょうか。
[参考資料]
株式会社ハルメクホールディングス「お金に関する意識・実態調査2025」
