どす黒い嫉妬の正体
今年で還暦を迎えるにあたり、Aさんは「一度くらい、同窓会に顔を出してみようか」と一念発起し、会場へ足を運びました。
会場では、やはり東大や早慶出身者たちがグループを作って当時の思い出を語り合っていました。大学卒業後、40年経っても高学歴はステータスに感じたそうです。彼らの多くは役職定年を迎え、現役時代の社会的地位を失いつつありましたが、共通の学歴を持つ者同士の連帯感は維持されていました。それを見たAさんは、夢のメガバンカーになっても、彼らのコミュニティには入れないことを痛感します。Aさんは勝ち組になったことを自慢することなく、疎外感を抱きながら傍観していました。
Aさんは思わずつぶやきました。
「40年前、受験に失敗したあの日、私の人生は決まっていたのかもしれない……」
専門職としての実績も、学歴に対する強い嫉妬心を消し去ることはできず、過去の失敗がどす黒い嫉妬としてヘドロ化し蓄積されています。
キャリアの肯定とこれからの老後に向けて
Aさんの事例からは、セカンドライフの生活の質は貯蓄額だけでなく、過去の経歴に対する自己評価に大きく左右されることがわかります。
Aさんがこれまでの人生で抱いてきた「失敗は成功のもと」と考え方を変えれば、かつての悔しさを浄化することができるでしょう。受験の失敗という強い劣等感があったからこそ、彼は銀行本体で59歳まで生き残るための圧倒的な専門性を身につけることができたからです。
もちろん、これからも嫉妬心は黒歴史としてつきまとうかもしれません。しかし、厳しい競争を勝ち抜き、夢だったメガバンカーとしてキャリアをまっとうしようとしている事実に目を向けるべきです。夢を叶えたからには、これまでの専門性を活かして社会に貢献し続けるといったさらなる努力が、結果として豊かな暮らしにつながるのではないでしょうか。
老後の資金計画において、解消されない負の感情は生活の質を下げる要因となります。他者との比較ではなく、自身の築き上げてきたキャリアに自信をもって前を向き進むことで、心の持ちようは確実に変化するでしょう。数字上の資産を管理すると同時に、自分自身の歩みを肯定することが、安定した老後生活を送るための鍵となります。
三藤 桂子
社会保険労務士法人エニシアFP
共同代表
