
「取材活動」と称して名店を巡る49歳の息子。その費用を支払うのは、遺族年金で暮らす78歳の母でした。親子が「夢」という言葉で先送りにし続けてきたのは、親の年金という細い糸一本で繋がった生活がいかに脆いかという事実と、目前に迫った「親子共倒れ」の危機でした。本記事では田嶋さん親子の事例から、「就労・年金・家計防衛」の3つの立て直し策について、波多FP事務所の代表ファイナンシャルプランナー・波多勇気氏が解説します。※紹介する事例は、相談者より許可を得て、プライバシー保護の観点から相談者の個人情報および相談内容を一部変更して記事化しています。
78歳母「息子は夢を追いかけているんです」
事務所に最初にいらしたのは、都内で暮らす78歳の田嶋啓子さん(仮名)です。6年前に夫を亡くし、現在は49歳の長男、達也さん(仮名)と2人暮らし。都内にある持ち家の一戸建てに住んでいます。
「先生、恥ずかしい話なんですけど……息子のことで相談があるんです」
啓子さんはそう切り出しました。達也さんは大学卒業後、食品メーカーに就職したものの3年で退職。その後、飲食店のアルバイトを転々としたあと、30代半ばから「フードライター」を自称し、食べ歩きのブログやSNSを始めたそうです。
「本人は『取材活動だ』といって、毎日のように外食しています。お昼はうなぎの名店、夜は焼肉。芸能人が来るようなお店にも平気で行くんですよ」
しかし達也さんのブログには広告収入もなく、ライターとしての原稿料もほぼゼロ。実態としては、年金暮らしの母親のお金で「美食」を楽しんでいるだけでした。
啓子さんの収入は、亡くなった夫の遺族厚生年金と自身の老齢基礎年金を合わせて月額約18万円。ここから食費、光熱費、固定資産税、そして達也さんの国民健康保険料まで支払っています。
「足りない月は貯金を崩しています。でも最近、残高を見るのが怖くて……」
通帳を拝見すると、夫の死亡保険金などで一時は800万円あった預貯金が、わずか6年で190万円まで減っていました。年間100万円以上のペースで取り崩していた計算です。
月18万円で2人暮らし…息子の外食費に消える年金
啓子さんの家計を少し整理してみましょう。
総務省の「家計調査」(2024年)によれば、65歳以上の単身無職世帯の消費支出は月約14万9,000円です。それが2人暮らしとなれば、当然ながら食費や光熱費は膨らみます。啓子さんの年金月18万円は、慎ましく暮らす1人分としてはなんとかなる金額ですが、49歳の大人がもう1人いる世帯を支えるには明らかに不足しています。
達也さんの外食費を啓子さんに尋ねると、こう答えました。
「正確にはわかりません。でも月に6万円くらいは使っていると思います。食費だけじゃなくて、スマホの料金もわたしが払っていますし、洋服も買ってあげることがあります」
仮に達也さん関連の支出が月8万円だとすると、啓子さん自身が使えるお金は月10万円。ここから固定資産税の月割り分(年間約12万円、月1万円)、光熱費(月1万5,000円)、通信費(月5,000円)、医療費(月8,000円)を差し引くと、啓子さんの食費や日用品に充てられるのは月6万2,000円ほどです。
内閣府の「高齢社会白書」(令和7年版)によれば、60歳以上で経済的な暮らし向きに「心配がある」と感じている人は約3割にのぼります。啓子さんのケースはまさにそれ以上の状況です。
さらに深刻なのは、達也さんの将来です。49歳で厚生年金の加入期間はわずか3年。国民年金も長期間未納が続いています。このままでは65歳になっても受け取れる年金はごくわずか。仮に老齢基礎年金を満額受け取れたとしても月約6万9,000円(2025年度)ですが、未納期間を考えると実際はさらに低くなるでしょう。
転機は突然やってきました。啓子さんが自宅で転倒し、大腿骨を骨折。救急搬送され、そのまま入院となったのです。啓子さんが入院した翌日、達也さんから事務所に電話がありました。
「母が急に入院してしまって。それで……明日から俺のメシ代、どうなるんですかね」
正直、言葉を失いました。母親の体を心配するのではなく、最初に出た言葉が「メシ代」とは……。
