◆思いついた「音には音を」のお経作戦
どうすれば騒音を止められるのか? 直接注意するのはトラブルに発展する可能性があり、ユウタさんは悩み続けていたという。「正直、見た目がかなり怖い人だったので、直接言いに行く勇気はありませんでした。どうしたらいいんだろうと考えているうちに、ふと思いついたのが『音には音を作戦』です」
その方法は、シンプルだがインパクトのあるものだった。半ばヤケクソの思いつきだったが……これが意外な結果を生むことになる。
「いつものようにN-BOXから重低音が鳴り始めた瞬間、窓を全開にして、カーテンで部屋の中が見えないようにしました。そしてYouTubeでお経を爆音で再生してみたんです」
住宅街の夜に、突然響き渡る読経。冷静に考えればなかなか異様な光景である。
アパートの他の部屋の方々など近隣の住人たちにも迷惑になってしまうとは理解していたが、当時のユウタさんにはそれ以外の対策が思いつかなかったそうだ。
「苦肉の策ではありましたが、見事、翌日からあの重低音の騒音はピタッと止まりました」
周囲の反応も気になったが、特に問題はなかったという。
「この作戦に対して近隣住民から苦情が来ることはありませんでした。もしかすると、他の住民のみなさんもN-BOXの重低音に悩まされていたのかもしれません。うちのお経が“騒音対策”になっていると、目をつぶってくれていた可能性もありますね。結果的に、騒音は完全に止まり、当時は心の底から安堵したのを覚えています。
北九州は“修羅の国”なんて言われることもありますけど、実際に住んでみると暮らしやすい街です。ただ、あのときの騒音トラブルだけは本当に困りましたね。今では『修羅の国より怖いのは、むしろ自分の発想力だったかもしれない』なんて妻と笑っています」
――ご近所トラブルは、直接抗議しにいくなど正面からぶつかるとかえって事態がこじれることもあるだろう。だが時には、大胆な“奇策”が状況を打開するきっかけになることもあるようだ。
<取材・文/逢ヶ瀬十吾(A4studio)>
【逢ヶ瀬十吾】
編集プロダクションA4studio(エーヨンスタジオ)所属のライター。興味のあるジャンルは映画・ドラマ・舞台などエンタメ系全般について。美味しい料理店を発掘することが趣味。

