回収不能だと主張するBさん、回収不能は“例外”だとする税務署
納税者(Bさん)の主張
Bさんは、「この貸付金は実質的に価値を失っているため、評価額はゼロとすべき」と主張しました。商事債権であれば5年で時効が完成し、債務者が時効を援用すれば返済義務は消滅します。したがって、このような債権は実質的に回収不能であり、経済的価値はないとしました。
さらに、長年返済が行われていないという事実自体が会社の資金的余力の欠如を示しており、帳簿上は資産超過であっても、実際には返済能力がない可能性が高いと指摘しました。
つまり、形式的な数字ではなく実態に即して判断すべきというのがBさんの主張です。
税務署の主張
これに対して税務署は、相続税評価の基本ルールに立ち返り、より厳格な基準で判断すべきと主張しました。
まず、「回収が不可能または著しく困難」な場合に評価しないという取り扱いは、あくまで例外的な措置であり、単に回収が難しいという程度では認められず、客観的に見て回収不能であることが明白な場合に限られるとしました。
また、Bさんの主張に対しては、「消滅時効は債務者(X社)が援用して初めて効力が確定するものであり、期間が経過しただけでは債権は消滅しない」「会社は資産超過で、営業利益も計上しており、経営破綻には至っていない」と反論。この貸付金はなお回収可能性を有しており、ゼロ評価は認められないと主張しました。
審判所は、未回収の貸付金が「相続財産にあたる」と判断
国税不服審判所は、税務署の主張を全面的に支持しました。
まず「消滅時効」の位置づけについては、期間が経過しただけで当然に効力が生じるものではなく、債務者が時効を援用して初めて返済義務が消滅することを確認。つまり、時効期間が過ぎているという事実は「将来援用される可能性がある」というにとどまり、その時点で債権の価値が消滅したとはいえないと判断しました。
また、「回収不能または著しく困難」と評価するためには、破産や事業停止など、債務者の経済状態が客観的に破綻していることが明白である必要があると指摘しました。
相続開始時点でX社は資産超過かつ営業利益を計上しており、事業も継続していたことから、「回収不能が明らか」とはいえないと判断し、この貸付金は例外扱いには該当せず、原則どおり元本1億円で評価すべきと結論づけました。
相続税における財産評価では、「客観的な事実」がすべて
本件は、「実感として回収できない」と「税務上ゼロで評価する」との間に大きな隔たりがあることを示した事例です。
ここまで見てきたように、時効は債務者が援用して初めて効力が確定するため、援用がない段階では依然として権利としての価値が認められます。また、「回収が困難」と認められるためには単なる長期未回収では足りず、破産や事業停止など、誰が見ても明らかな事情が必要とされます。
相続税における財産評価では、主観的な感覚ではなく、客観的な事実がすべてです。判断に迷う財産については、この視点を持つことが、適正な申告につながるといえます。
高橋 創
税理士
