「ただいま」という、最高の贅沢
出発からわずか1週間。ヒロユキさんの車は、予定より大幅に早く自宅のガレージに滑り込みました。
「あら、どうしたの? 日本一周は?」
驚くレイコさんに、ヒロユキさんは苦笑いしながら答えました。
「いや……静岡も愛知も三重も、もう十分満喫したから。やっぱり、家が一番だなと思って」
その晩、ヒロユキさんはレイコが淹れてくれた熱いお茶を飲み、慣れ親しんだ綿の布団に身を沈めました。腰を優しく包み込む布団の柔らかさと、静かな寝室。
「ああ……これだ……」
300万円かけた豪華なキャンピングカーよりも、何十年も使い古したこの四畳半の寝室こそが、自分にとっての「天国」であったことに、彼はようやく気づいたのです。自由とは、どこか遠くへ行くことではなく、無理をせず、自分らしくいられる場所をいつでも持っていること。翌朝、久しぶりに深く眠れたヒロユキさんの腰の痛みは、和らいでいました。
