中途採用が当たり前になったいま、経歴の立派さだけで人を見極めるのは難しい。厚生労働省の調査によると、2024年に転職して新たな職場に入った人は492万人に達した。
多くの企業が即戦力を求め、多くの働き手が新天地を選ぶ時代だが、その出会いが必ずしもうまくいくわけではない。採用時には魅力的に見えた人材が、実務の現場では期待を裏切る。そんなミスマッチは、決して珍しくないのである。中途採用で入社したAさんは、「金融大手でバリバリやってた」と自信満々に語っていた。しかし、2週間後には別人のようにおとなしくなり、職場に顔を見せなくなった。
◆研修中の質問で光り輝いた「自己顕示欲」

高田さんが勤めるコールセンターは、ネット回線の新規営業を目的としたテレアポ専門の職場で、約30名のアポインターが在籍していた。仕事の内容はシンプルで、1日に150社前後の中小企業へ電話をかけ、訪問予約を取りつけることだ。
親切に応対してくれる会社もあれば、営業電話として冷たくあしらわれることも多い、精神的にタフさが求められる世界である。
その新人は20代の眼鏡の女性だった。履歴書の内容——有名大学を卒業後、大手金融機関に勤務——が、入社前からすでに社内で話題になっていたという。
「なぜそんな優秀な人が、テレアポのコールセンターに来るんだろうって、みんな不思議がっていました」
実際にやってきたAさんは、見た目からして「いかにも仕事ができそうなタイプ」だったと高田さんは言う。自己紹介ではハキハキと話し、金融機関でバリバリ活躍してきたことを自信満々に披露した。30人規模の大広間で全員が顔をそろえる職場環境だっただけに、その存在感は否が応でも目立った。
研修やロールプレイの場でも、彼女は常に積極的に手を挙げ、他の2〜3人の新人を圧倒するほど目立っていた。ただ、高田さんにはひとつ引っかかることがあった。彼女の質問の内容だ。
「新人であれば、仕事に関する具体的な質問をすればいいのに、『この会社の業績はどうなんでしょうか?』『5年後の展望は? 今はAIの時代なので気になります』みたいなことを聞くんです」
一見すると鋭い問いかけに思えるが、高田さんには別の意図が透けて見えた。
「“新人なのにこんな質問ができる私を見て”という自己顕示欲や承認欲求が、一つひとつの質問に見え隠れしていました。自分に酔っているというか。正直、ちょっと嫌悪感を覚えましたが、まあ優秀なんだろうな、とは思っていました」
◆現場デビューで一変した評価

原因は「話し方がまったくもってマニュアル通りで、柔軟性がなかった」ことだと、高田さんは説明する。電話口の相手がイラついてしまい、デビューから最初の1週間で怒鳴られたり、ガチャ切りされたりすることが続いた。
あるお客様からこんな質問が来たという。
「ネットを切り替えるなら今の契約の中途解約金を払わないといけない。月額が安くなっても損じゃないか。なぜ安くなると断言できるんだ?」
これは相手が抱く正当な疑問であり、真摯に向き合わなければならない質問だ。ところが、彼女の返答はこうだった。「弊社は東海3県の地域密着型でやっておりますのでお安くなっております」。高田さんが指摘する。
「マニュアルには、たしかにそういう文言があるんです。でも、それは使いどころが違う。相手が聞いているのはコストの損得についてなのに、会社の特徴を語っても何の答えにもなっていない」
マニュアルを「覚える」ことと、マニュアルを「使いこなす」ことは、まったく別の話である。リアルタイムでの判断力こそが、テレアポの現場では問われるという。

