◆【エピソード2】朝の繁華街で始まった出勤前の攻防戦

「止まるのかなと思って減速したら、急にバックしてきたんです。ぶつかると思いました」
慌ててブレーキを踏むと、セダンは山本さんの前方右手の駐車場に滑り込み、すれ違いざまに大音量のクラクションを鳴らした。
「鼓膜が“ビリっ”ってしたくらいの音でした。繁華街なので、正直、“その筋の人”かもって思いました」
そのセダンは再び動き出し、今度は山本さんの後方に張りついた。車間を詰め、左右に車体を揺らしながら挑発してきたのだ。
◆軽自動車の機敏な動きで逃げ切った
「早く逃げたいけど、繁華街って道が狭いし人も多い。下手にスピードを出したら事故を起こすと思いました」
焦る気持ちを抑え、山本さんは“あえて低速”を維持したという。そして、通勤ルートを変え、裏道へハンドルを切った。
「軽自動車のよいところは、小回りがきくことです。相手はセダンだから、狭い道ならついてこれないかもって思ったんです」
角を曲がると、開店準備中の飲食店の前にワゴン車が止まっていたそうだ。スタッフが荷物を運んでおり、道幅はさらに狭くなっていた。
「バックミラーを見たら、黒いセダンは見えませんでした。通れなかったみたいで、後ろから別の車がきて詰まっていましたね」
山本さんはそのまま路地を抜け、目的のコインパーキングへ到着。車を止めた瞬間、緊張がほどけたようだ。
「心臓はまだドキドキしてたけど、恐怖よりも“冷静でいられた”っていう安堵感のほうが大きかったです」
勤務時間まで少し余裕のある時刻を確認し、ようやく落ち着いたという。

