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「働いても豊かになれない」のになぜ働き続けるのか。日本人が仕事を手放せない“根深い理由”

「働いても豊かになれない」のになぜ働き続けるのか。日本人が仕事を手放せない“根深い理由”

◆労働人口が減っても賃金が大きく上昇しないという矛盾

節約のイメージ
 日本では2010年代前半ごろから、労働人口(15〜64歳)が本格的に減少しており、今後さらに減少が続くことがほぼ確実視されている。

 労働人口が減るということは、労働力という商品の供給が減るということだ。市場原理に従えば、供給が減れば価格は上昇する。すなわち、本来であれば賃金が上がる方向に働くはずである。

 しかし、現実はそう単純ではない。

 グローバル化が進んだ現在では、国内の労働者が減っても、その不足分を海外から補うという選択肢がある。

 実際、日本は外国人労働者の受け入れを拡大しているので、都市部のコンビニや飲食店、物流現場などでは外国人労働者が多数を占める光景は今や決して珍しくない。

 それに加えてAIやロボット技術の劇的な進歩もある。初期投資は必要であっても、長期的に見れば人を雇うよりもコストを抑えられると判断されれば、企業が自動化に舵を切るのは当然の選択だろう。

 こうして外部からの補充や技術による代替によって調整されれば、国内人口が減少したとしても労働の供給量はそれなりに維持される。

 その結果、本来であれば生じるはずの賃金上昇圧力は弱まり、国内の労働人口が減っているにもかかわらず賃金が大きく上昇しないという現象が生じているのだ。

 一方で、介護や運輸、外食といった分野は慢性的な人手不足に陥っていて、中には賃上げや待遇改善を打ち出している企業も確かにある。

 しかし、これらの業界はもともと利益率が高くないうえに、価格競争や制度上の制約もあって人件費の上昇分をそのまま価格に転嫁することが難しい。だから、大幅な賃上げには踏み切れないのだ。

 だから社会全体として見れば、賃金の伸びは緩やかであり、少なくとも物価上昇に見合うほどには上昇していない。むしろ実質的な購買力は目減りしている、というのが今の日本の実情だ。

◆たくさん働くことをやめられない本当の理由

 貴重な労働力を提供しているにもかかわらず、十分な賃金を得られないのであれば、暴動が起こったって不思議ではないと思うのだが、日本人はその状況にひたすら甘んじている。

 また、「たくさん働けばたくさん稼げる」時代はとうに終わったことを十分わかっていても、ほとんどの人たちはたくさん働くことをやめようとはしない。

 税をモノではなく貨幣で納めるようになり、すべての人が「お金を手に入れなければならない存在」になった時点で、「働くこと」は「お金を稼ぐこと」とほぼ同義になった。

 その後、資本主義が本格的に拡大するにつれ、かつては地域や共同体の内部で完結していたことも含め、ありとあらゆる機能が次々と商品化され、お金が介在するサービスとして販売されるようになった。

 今や教育も医療も住居も老後の生活も、ほぼすべてが貨幣を介してしか確保できない。たとえ自給自足に近い生活をしていたとしても、お金を一切持たずして生きるのは少なくとも日本のような国では不可能だろう。

 こうなると、とりわけ資本を持たない人々にとっては、「お金を稼ぐために働く」ことの拘束力はより一層強くなるので、「働かない」という選択肢など選びようがないのだと見ることもできる。

 しかし、本当にそれだけが理由だろうか。

 むしろそれ以上に、農耕が始まって以来人間の脳に染み付いている「働いてお金を得ることが善であり、働かないことは悪である」という倫理観のほうが大きく影響しているのだと私には思えてならない。

 つまり、十分に報われないことがわかっていても人がたくさん働くことをやめないのは、単に経済構造の問題だけではなく、長い歴史の中で内面化された価値観に強く拘束されているからなのかもしれない。

【池田清彦】
1947年、東京都生まれ。生物学者。東京教育大学理学部生物学科卒、東京都立大学大学院理学研究科博士課程生物学専攻単位取得満期退学、理学博士。山梨大学教育人間科学部教授、早稲田大学国際教養学部教授を経て、現在、早稲田大学名誉教授、山梨大学名誉教授。高尾599ミュージアムの名誉館長。生物学分野のほか、科学哲学、環境問題、生き方論など、幅広い分野に関する著書がある。 フジテレビ系『ホンマでっか!?TV』などテレビ、新聞、雑誌などでも活躍中。著書に『騙されない老後』『平等バカ』『専門家の大罪』『驚きの「リアル進化論」』『老いと死の流儀』(すべて扶桑社新書)、『SDGsの大嘘』『バカの災厄』(ともに宝島社新書)、『病院に行かない生き方』(PHP新書)、『年寄りは本気だ:はみ出し日本論』(共著、新潮選書)など多数。また、『まぐまぐ』でメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』を月2回、第2・第4金曜日に配信中。
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