
国税庁が発表した「令和6事務年度 調査状況」によれば、相続税・贈与税に関する実地調査において、申告漏れなどの「非違(誤り)」がみつかる割合は82.3%と、依然として極めて高い水準です。さらに、1件あたりの追徴税額は平均867万円にものぼります。なかでも勘違いによる「連年贈与」の失敗は、のちの大きなトラブルになることも。「毎年110万円ずつ渡せば、税金はかからないはず」そう思っている人も多いのではないでしょうか。本稿ではAさんの事例とともに、年110万円以下の連年贈与を成功させるポイントについて木戸真智子税理士が解説します。
祖父との突然の別れと、遺してくれた「愛の手紙」
Aさんは大学を卒業して3年目の会社員です。大学入学を機に東京へ引っ越してきて、そのまま地元には戻らず東京で就職活動を行い、念願のコンサルティング会社に就職することができました。現在は、忙しいながらも、日々楽しく充実した生活を送っています。
そんなAさんを誰よりも可愛がっていたのが、地元の祖父でした。祖父にとってAさんは初孫で、長男の子ということもあり、それはそれは可愛がってくれるので、Aさん自身もおじいちゃん子に育ちました。Aさんが上京してからも、ゴールデンウィークやお盆休み、年末には必ず帰省してくるので、東京での出来事を楽しそうに報告するAさんとの時間を、祖父は毎年心待ちにしていたといいます。
しかし、別れはあまりに突然でした。2年前、祖父の不幸の連絡が届いたのです。もともと心疾患を抱えつつも、通院しながら問題なく過ごせていたのですが、買い物に出かけた帰りに倒れてしまい、そのまま帰らぬ人となったそうです。Aさんはショックでなにも考えられず、すぐに休暇を取り、実家に帰りました。
「もうすぐゴールデンウィーク。またいろいろな話ができると思っていたのに……」
悔しさと悲しさでどうしようもない気持ちで塞ぎこむAさんを救ったのは、祖父が遺していた「家族への想い」でした。
祖父は、自分が亡くなったあとに家族が揉めたり困ったりしないよう、自分の万一が起きたらこうしてほしいという意向を家族に話し、定期的に手紙やメモも書き溜め、しっかりとした遺言書も準備していました。Aさんが高校生になってからは、「お前にも関わることだから」と、Aさんにも祖父が直接話してくれており、実際、手紙のなかには、Aさんへの贈与についての約束も記されていました。
「Aの誕生月である10月1日に、毎年110万円ずつ、合計2,200万円を贈与する」祖父はこの手紙の内容どおり、毎年欠かさずAさんの口座へ110万円を振り込んでいました。家族全員が「おじいちゃんの思いやりのおかげで、スムーズに相続が進んだね」と、涙ながらに感謝の気持ちを分かち合っていたのです。
手紙のとおり毎年110万円ずつ渡してくれたのに…
平穏な日常にようやく戻った2年後、税務署から「税務調査」の連絡が入ります。戸惑う両親を支えるため、Aさんも緊張していましたが、調査に同席することにしました。
やってきた調査官は、意外にも温和で聞き上手な人でした。Aさんたちは緊張が解け、祖父との思い出話や、相続の際に家族でいかに助け合ったかというエピソードを、包み隠さず話しました。祖父がいかに丁寧な人だったかを証明しようと、例の「手紙」もみせたのです。ところが、その手紙を読んだ瞬間、調査官の顔つきが変わりました。
「この手紙の内容ですと、ご想定が認められません。2,200万円贈与するという約束をした時点で2,200万円が贈与税の対象となります。この場合、贈与税は675万円です」
Aさんも両親も驚きのあまり、しばらく呆然としてしまいました。毎年110万円、つまり「贈与税がかからない範囲」で受け取っていたはずのAさんにとって、まさに青天の霹靂だったのです。
「なぜですか!? 合計2,200万円というだけでしょう。祖父は約束どおり毎年110万円ずつ送ってくれたのに、そんなのおかしいでしょう!」
