
「老後資金のために、1日でも長く働き続けよう」――。そう考えて再雇用や定年後の就労を選んでいる人は多いはずでしょう。しかし、なかには働き続けることで、本来もらえるはずの年金が数十万円単位でカットされているケースも。本記事では高橋さん(仮名)の事例とともに、特別支給の老齢厚生年金について、FP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が解説します。※本記事は実話をベースに構成していますが、プライバシー保護のため、個人名や団体名、具体的な状況の一部を変更しています。
老後の生活設計を考えはじめた夫婦に訪れた転機
高橋健一さん(仮名/67歳)と妻の由美子さん(仮名/63歳)は、地方で二人暮らしをしています。二人は同じ会社に大卒、高卒で同期入社し、職場結婚。その後、3人の子どもに恵まれ、共働きで家庭を支えてきました。
60歳で定年を迎えた際、金融資産が3,000万円と、すでにそこそこ蓄えられていたため、「もう仕事はいいかな」とも考えましたが、最終的には二人とも再雇用として同じ会社で働き続けることを選びます。
「金銭的に老後はなんとかなるだろう」という漠然とした安心感はあるものの、いつから年金を受け取るべきか、資産をどう取り崩していくべきかについては明確な方針が決まっていませんでした。
健一さんは65歳から年金を受け取っているものの、由美子さんは「年金は繰り下げると増える」という話を耳にしていたため、できるだけ受給開始を遅らせたほうが得なのではないか、と考えました。
しかし、自分たちで調べてもどうすべきか埒が明かず、将来に向けた資金計画を整理するため、ファイナンシャルプランナーに相談することに。この相談が、思いもよらぬ“気づき”につながることになるとは、このときの二人は想像もしていませんでした。
「いま辞めれば78万円増える」…思わぬ制度の存在
FPは相談のなかで、ねんきん定期便をもとに夫婦の加入記録を確認しました。そのなかで、由美子さんの厚生年金加入期間が18歳から44年以上におよんでいることに気づきます。
この条件を満たす場合、ある特例が適用される可能性があり、そのことについてアドバイスをします。それが「長期加入者の特例」です。この特例は、仮に由美子さんが64歳で退職し、厚生年金の被保険者でなくなった場合、本来は受け取れないはずの年金が上乗せされ、年間約78万円の年金を追加で受け取れる可能性があるというもの。
念のためFPは年金事務所での確認を勧め、後日、夫婦は窓口を訪れました。職員に確認すると、「はい、確かにいま辞めれば年金は78万円増えますよ」と、FPの指摘どおりの回答が得られました。
「仕事を続けていたら、この分は受け取れなかったということですか?」という問いに対し、職員ははっきりとこう答えます。「はい、そのとおりです」。この一言で、由美子さんは退職を決断しました。
帰り道、年金が増える安心感とともに、どこか腑に落ちない思いも残りました。
「どうして、こういう大事な制度をもっと教えてくれないのだろうか」
そんな疑問が頭を離れなかったのです。
