隠蔽はバレる?ATM出金から不正を見抜く「税務調査のリアル」
今回の兄妹の事例のように、別々の税理士へ申告を依頼し、申告内容が異なると税務調査に入られる可能性は高まります。
また、強調すべきは、税務調査で最も指摘されやすいのが「現預金」である点です。預金の出金や資金移動は記録が残りますし、調査官は職権により銀行へ調査対象関係者の入出金情報の開示を求めることができるため、誤魔化すことはできません。
本件調査では、
・ATM出金は決まって実家近くの銀行
・被相続人不在後も続く出金
・長男口座への預金振込
といった複数の事実が積み重なり、資金の流れが立体的に把握されます。
重要なのは、税務署はすでに相当程度の情報を把握したうえで調査に臨むという点です。つまり、「調査でバレる」のではなく、「すでに把握されている事実を確認しにくる」と考えるべきでしょう。
また、本件のように資料収集が弁護士経由で行うケースや、相続人が高齢または健康状況が悪いケースでは、税務調査も長期化しやすくなります。
通常、相続税の税務調査は数ヵ月から長くても1年未満で終わるのが一般的です。それにもかかわらず、本件のように3年に及ぶ調査は極めて異例であり、実務上もかなりレアなケースといえます。
さらに、こうした資金の扱いは税務リスクも伴います。仮に仮装・隠蔽と判断されれば、重加算税の対象となり、税負担は大きく膨らみます。
泥沼の遺産争いを防ぐための「生前の相続対策」
最終的に本件では、長男のタロウさんが利用していた資金を預け金として相続財産に計上させ、遺産分割と相続税の双方に影響を及ぼしました。ただし、1億円全額でなく、生活費として費消されたと認められる部分は精査のうえ調整されています。
一方でアキコさんは、通帳がないという不利な状況にありながらも、専門家と連携し適切に対応しました。
しかし、被相続人の取引履歴を早期に取得していれば、より早く問題の全体像を把握できた可能性は高いといえます(相続人であれば、銀行から最低10年間の被相続人の取引履歴を取り寄せることができます)。
実務上、こうした問題が起きやすいのは、本件のように預金が多額にある単親と子が2人暮らししているケースです。管理が一人に集中し、他の相続人から見えにくくなることで、資金の不透明化が進みやすくなります。
だからこそ重要なのは、財産情報の共有です。
預金の所在や残高を子全員に共有しておくこと。それに加えて、遺言書やエンディングノートで財産の分け方の意向を示しておくことで、多くのトラブルは未然に防げます。
税務調査は、お金の流れをすべて明らかにします。不透明な資金は、いずれ必ず発覚します。だからこそ、「見られても困らない管理」を徹底すること。
それが、遺される家族と財産をトラブルから守るための現実的な備えといえるでしょう。
根津 拓矢
パンタレイ税理士事務所
税理士/行政書士/CFP®/1級FP
