
原油高騰や物価高への対応として、国民民主党が中・低所得者層への「5万円給付」を提言しました。背景には、政府が構想する「食料消費税ゼロ」と「給付付き税額控除導入」の実施遅れがあります。しかし、過去の給付金政策では、「生活支援」より「貯蓄」に回ったとの指摘も少なくありません。今回の給付は本当に家計支援につながるのでしょうか。また本当に効力のある経済的支援はどのような制度で実現できるのでしょうか。本稿では、給付金を巡る制度設計の課題を整理します。
原油高と物価高をどう乗り切るのか
中東情勢の緊迫化や円安の影響によって、ガソリン価格や電気代、食料品価格の上昇が続いています。特に所得の低い世帯ほど、生活必需品への支出割合が高いため、物価高の影響を受けやすい状況です。
そのため、政府による迅速な家計支援を求める声は強まっており、現金給付を含めた追加経済対策が再び議論の俎上に載っています。
食料品消費税ゼロ実施の遅れと“つなぎ策”
現在、政府は「2年間の食料品消費税ゼロ」を実施したうえで、そのあとに給付付き税額控除を導入する構想を描いています。しかし、食料品のみ税率を変更するためには、小売店のレジ改修やシステム変更、事業者への周知など、多くの実務対応が必要になります。
特に中小事業者にとっては負担が大きく、準備期間を考慮すると、来年度からの実施は難しいとの見方が強まっています。
「5万円給付」はありなのか?
国民民主党は、原油高騰を受けた経済対策の在り方について協議した結果、中・低所得者層を対象に5万円を給付すべきだとの意見で一致したとのことです。
国民民主党の提言は、食料品消費税ゼロ実施までの“つなぎ”として、まず現金給付を行うという位置づけです。ただし、給付対象については今後検討される見込みであり、いわば「つなぎのつなぎ」ともいえる政策です。
岸田内閣の定額減税と補足給付金
岸田内閣が実施した定額減税では、所得税と住民税の減税が行われました。しかし、住民税非課税世帯や均等割のみ課税される世帯については、もともと納税額が少ないため、減税効果を十分に受けられないという問題がありました。
そのため政府は、「定額減税補足給付金」を創設し、対象世帯に対して現金給付を実施しました。具体的には、世帯主に10万円、さらに18歳以下の児童1人当たり5万円が支給されました。
減税の恩恵を受けにくい低所得層への配慮として導入された制度であり、今回の5万円給付案にも、こうした考え方が影響しているとみられます。
コロナ給付金はなぜ「貯蓄」に回ったのか
過去の現金給付策については、「消費喚起につながらなかった」との指摘も根強くあります。コロナ禍で実施された「1人10万円給付」では、所得制限を設けず全国民を対象としました。その結果、支給された現金の多くが消費ではなく貯蓄に回ったとされ、当時の麻生財務大臣も同様の認識を示していました。
実際、将来不安が強い局面では、家計は支出を増やすよりも、まず預金を厚くする傾向があります。特に中間所得層以上では、給付金が生活費補填ではなく「予備資金」として扱われやすい面があります。
このため、現金給付を実施する際には、「本当に支援が必要な層」にどこまで対象を絞り込めるかが、政策効果を左右することになります。
生活支援になる世帯と貯蓄に回る世帯の違い
今回の5万円給付をめぐる最大の論点は、支給された資金が「生活費」に回るのか、それとも「貯蓄」に回るのかという点です。
物価高の影響を強く受けている低所得世帯では、食費や光熱費、ガソリン代の上昇によって家計が圧迫されています。そのため、給付金は生活維持のために使われる可能性が高いと考えられます。しかし、一定の貯蓄余力がある世帯では、将来不安への備えとして預金に回るケースも少なくありません。
つまり、同じ5万円給付でも、家計状況によって政策効果は大きく異なるのです。問題は、どの所得水準で線引きを行うのか、また迅速な支給と厳密な所得判定をどのように両立させるのかという実務面にあります。
補正予算を巡る与党内の温度差
この給付の提案は、単なる家計支援策にとどまらず、補正予算を巡る与党内の駆け引きとも密接に関係しています。
物価高対策として追加財政出動を求める勢力は、現金給付の必要性を主張しています。一方で、財政規律を重視する立場からは、大規模な補正予算編成に慎重な意見も根強くあります。
高市首相が補正予算に消極的とされるなか、給付実施を求める側は、「生活支援の必要性」を前面に押し出しながら、補正予算編成への圧力を強めている構図です。
