だが、“ボーナスステージ”も束の間。’22年以降、相場の急落、歴史的円安、止まらない物価高というトリプルパンチによって、SNS上では「FIRE卒業」という言葉が広まり始めた。楽になるはずだった者たちが今、静かに脱落しつつあるのだ。
◆テスラ株が吹いて「資産8000万円」になるも…

「’20年、コロナショックを機に本格的に投資を始め、これが大当たり。テスラ株が8倍に急騰して、資産が8000万円を超えた時点で利確しました。それをオルカン中心のインデックスファンドと国内の高配当株に分散。月25万円は自動で入ってくる仕組みができたので、’22年春に退職届を出しました」
念願のFIREを達成した佐々木さん。だが、その“自由”は想像とまるで違っていた。
「昼まで寝て、気になってた動画を全部観て、子供の頃好きだった漫画も読み直して。珈琲に凝ったり、カレー作りにも挑戦しました。けど、2か月目に入った頃にはすることもなくなるんですね。筋トレ、サウナ、読書。思いつく限りのことは試したけど、全部すぐ飽きました。気づけば夜の街に出かけるようになって、酒量と比例するように出費が増えていって……。たまにいくガールズバーでは『投資家として成功してFIREしてる人』としてチヤホヤされるから、見栄も張らなくてはいけなかった」
相場の悪化も、佐々木さんの財布を締め付けた。’24年に日本株が急落し、オルカンも高配当株も軒並み値を下げた。資産は5000万円台まで縮み、分配金も月20万円を割り込んだ。そこへ、さらなる打撃が重なった。
「ガールズバーで知り合った女の子から不同意性交で訴えられて。いきなり弁護士から通達が来ました。ホテルでの写真まで見せられて、慌てて僕も弁護士に相談したけど、示談金を支払わなければ懲役と……初めから仕込まれた美人局でした」
弁護士費用と示談金の支払いで600万円近くを費やした佐々木さんのメンタルはズタボロに。かつてテスラ株で当てたように個別株での勝負に手を出すもうまくいかず、多額の資産を取り崩すことになり、あっけなくFIRE卒業を余儀なくされた。
「貯金はついに1000万を割りました。昨年から再就職を試みていますが、3年近いブランクを理由に20社以上で不採用が続いています。今はウーバーイーツの配達で月12〜18万円稼いで凌いでいます」
◆「日本人が日本人を食う」タイの縮図

そう話すのは、岡田誠一さん(仮名・43歳)。岡田さんがFIREし、タイへ渡ったのは’24年のことだ。
「長年積み立ててきた高配当株への投資と、相続で手に入れた不動産を売却して、総資産1億円を達成。タイ移住を決め、バンコク中心部のスクンビットのコンドミニアムに拠点を移しました。屋台飯1食300円、マッサージ1時間1200円と物価は安いし余裕だと思った。バンコクは別名『天使の都』。女の子も可愛いですしね」
だが、バンコクの日本人コミュニティは思いのほか狭かった。「資産がある」という話は瞬く間に広まり、知らない日本人からも声がかかるようになったという。
「今になって思うのは、バンコクにいる日本人は〝日本にいれなくなった理由アリ〟の人間がめちゃくちゃ多いこと。現地で日本人が日本人を騙すのが、流行っているんです。僕が移住した当時、タイでは大麻ビジネスが盛んだったのですが、そこへの投資やよくわからない仮想通貨のICO案件でガッツリいかれてしまった」
追い打ちをかけるように、昨今の円安が岡田さんの財布を蝕んでいった。
「月20万円以下で余裕で暮らせると踏んで移住したんですが、1バーツ4円だったのが今じゃ5円を超えています。物価高もすさまじく、都心部の飲食店はもはや東京と大差ありません。円安なんて全然計算に入れていなかった。このトレンドは収束しなそうなので、帰国を視野にいれています」

