「自分たちの老後不安」と、長男の責任感
親からのSOSに対し、岡田さんは激しい葛藤に襲われます。「なんとかしてあげたい」という長男としての責任感。しかし、現実は非情です。 岡田さん自身もまた、年齢を重ねています。岡田さんの年収は800万円。平均年収を大幅に上回る額を稼いでいますが、自分たちの老後資金を計算すれば、実家の修繕に数百万円を投じる余裕などどこにもありません。
なにより、生活をともにする妻の反応は冷ややかでした。
「私たちの老後はどうするの? 賃貸の私たちは、自分たちで住む場所を確保しなきゃいけないのに」
正論でしょう。しかし、正論であればあるほど、親を助けてあげたい岡田さんは追い詰められます。意を決して疎遠になっていたしっかり者の姉や二人の妹に連絡をしてみました。相談を持ちかけてみたものの、そこで待っていたのは容赦のない反応でした。すでに嫁ぎ、それぞれの場所で生活費や教育費とシビアに向き合ってきた彼女たちからすれば、実家の問題をすべて親任せにしてきた岡田さんの姿は甘えそのもの。「長男のくせに、いままでなにをみてたの?」「本当に世間知らずね」と、怒りを買ってしまったのです。
「なんとかしなければ」という思いだけが空回りし、夜も眠れないほど頭の中が整理できなくなっていく。岡田さんは、愛情と責任感、現実の板挟みのなかで、出口のない迷路に迷い込んでしまいました。
「親のような老後」はもう来ない…
岡田さんがいま、まず行うべきことは「自分自身のライフプランを再構築すること」です。 親を助けるために、自分たちの老後を破綻させては元も子もありません。それは、かつて必死に家計をやりくりして岡田さんを育てた両親が、最も望まない結果であるはずです。
「親のような老後」は、もう来ません。時代が変わったのです。 内閣府の「高齢社会白書」における労働人口の推移を見ても、かつてのように多くの現役世代が高齢者を支える社会構造自体がすでに崩壊しているのは明らかです。実家を売却するのか、公的な支援制度を利用して最低限の修繕に留めるのか、あるいは姉妹と費用を分担するのか。これらの議論を始めるためには、まず岡田さん自身が「自分たちの生活にいくら必要か」という現実(いまの実力)を直視しなければなりません。
整理できなくなった思考を解きほぐすには、専門家の手を借りるのも一つの手です。ファイナンシャルプランナーとともに数字を可視化し、なにができてなにができないのかを明確にすることをお勧めします。それは親への冷たさではなく、家族全員が共倒れしないための、最も誠実な「愛」の形といえるでしょう。
雨漏りする実家をみつめ、途方に暮れる時間はもう終わりです。過去の温かい思い出を大切に抱きしめながら、これからは「現代のルール」に基づいた、新しい親子の支え合い方を模索する。その第一歩は、自分自身のライフプランを手元に置くことから始まります。
〈参考〉
政府広報オンライン
https://www.gov-online.go.jp/article/202111/entry-9952.html
環境省 熱中症環境保健マニュアル 総論 2 P5
https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_ov_02.pdf
内閣府「令和7年版 高齢社会白書」就業・所得 労働人口の推移
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2025/html/zenbun/s1_2_1.html
内閣府「第9回 高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」第2章 2家庭生活の状況 P29
https://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/r02/zentai/pdf/2_2.pdf
厚生労働省「人口動態統計」2024年 統計結果の公表状況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/kouhyou/e-stat_81-1.xml
e-Stat 統計でみる日本 人口動態調査 人口動態統計 確定数 死亡
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003411675
藤原 洋子
FP dream
代表FP
