
「退職代行サービス」を利用する従業員が増加するなか、突然の通知に戸惑い、感情的な対応をしてしまう経営者や人事担当者は少なくないでしょう。しかし、その対応を一つ間違えれば、労働基準監督署の介入や過去の未払い残業代の発覚など、企業にとって致命的なトラブルに発展する危険性が潜んでいます。退職代行を無視し、貸与品の未返却を理由に最終給与の支払いを止めてしまった社長の事例をもとに、企業が取るべき正しい実務対応について、社会保険労務士の岡佳伸氏が解説します。
「給料は1円たりとも払わん!」退職代行の連絡を受けた社長の怒り
「退職代行? 本人から直接連絡がないなら、相手にしなくていいだろう」
とある企業の社長・Aさんは、退職代行からの連絡を「怪しい」「本人からではない」と考え、そのまま放置しました。さらに、制服や工具、社用スマートフォンなどの貸与品が退職者から返っていないことへの怒りから、最終月の賃金まで止めてしまいました。
「会社の備品すら返さないような非常識な人間に、最後の給料は1円たりとも払わん!」
たしかに、経営者の感情としては、理解できなくもありません。突然、退職代行から連絡が入り、本人は会社に顔も出さない。貸与品も返ってこない。現場に迷惑がかかっている。そうなれば、「非常識なのは相手だ」と思いたくなるでしょう。
しかし、この判断が会社にとって大きな落とし穴になりました。
労働基準監督署から突然の連絡…掘り返された「過去の未払い残業代」
退職者は、給与未払いの件を労働基準監督署に申告しました。その後、監督官から会社に連絡が入り、最終月の賃金不払いだけでなく、過去の未払い残業代まで確認されることになったのです。
結果として、会社には最終月賃金と未払い残業代の支払いを求める是正勧告が出されました。
退職代行を無視したつもりが、労基署対応に発展し、眠っていた残業代問題まで掘り起こされる始末。
「まさか過去のトラブルまで掘り返されるなんて……」
Aさんは、感情で対応したばかりに、会社を一気に不利な立場に追い込んでしまったのです。
