年金面でも…平均余命想定で「1,000万円超」の大損
さらに正雄さんは、弁護士の紹介で、シニア世代のマネープランに詳しいファイナンシャル・プランナーのもとを訪れました。そこで提示された離婚後の収支シミュレーションは、あまりにシビアなものでした。
正雄さんが受け取る厚生年金のうち、婚姻期間中に積み上げた部分は妻と折半(年金分割)になるため、月額約6万円が一生減り続けることに。平均余命までを想定した場合、その目減り額の合計は約1,080万円となります(※1)。
さらに、「年下の妻がいる夫」への家族手当である加給年金(年約42万円)も、離婚と同時に打ち切りとなるため、残り4年分の手当金約168万円も失うことになります(※2)。
妻に先立たれた場合でも、離婚は大損になる
最も衝撃的だったのは、「もし妻に先立たれたら、自由になれるのに」という、正雄さんの怒りにまかせた“妄想”においてさえ、「離婚」という選択肢は大損を招くという事実でした。
妻が他界した時点で婚姻関係が続いていた場合、田中家のように資産が夫名義に集中しているケースでは夫婦の財産はそのまま夫の手元に残り、年金も満額受け取り続けられます。一方、いったん離婚すれば、財産の半分を妻に渡したうえで、自分の年金も生涯減額されたまま。元配偶者には相続権もありません。
シビアな試算ですが、結婚継続と離婚の両シナリオを並べると、その差額は約4,330万円(※3)に。妻に先立たれる前提ですら、婚姻関係を継続していたほうが、経済的にはずっと有利なのです。
さらに、離婚後の住居問題も立ちはだかります。「自宅は妻に渡して、自分はマンションでも借りればいい」……正雄さんは当初そう考えていました。長年住み慣れた一戸建てに未練はなく、3,000万円の投資資産があれば賃貸暮らしも十分賄えると考えていたのです。
国土交通省の調査では、大家の約7割が高齢者に拒否感を持ち(※4)、高齢者の4人に1人以上が年齢を理由に入居を断られた経験を持つ(※5)とされています。正雄さんが家を借りるのも、そう簡単にはいかない可能性があります。
また、こんな落とし穴もあります。自宅をいつ妻に渡すかで、税の扱いが大きく変わるのです。離婚成立後に財産分与として渡せば、夫側に譲渡所得税はかかるものの「マイホーム売却の3,000万円特別控除」で実質ゼロにできるケースが多い一方、離婚前に名義変更すると夫婦間贈与扱いとなり、妻側に贈与税が発生します(※6)。手続きの順番を間違えれば手元資金がさらに目減りするうえ、肝心の住まい探しも難航必至です。
「マンションでも借りればいい」という正雄さんの気楽なビジョンは、音を立てて崩れ去りました。
