タンス預金が内包する脆弱性
警察庁の「特殊詐欺被害状況」のデータを見ても、新紙幣発行に乗じた「旧札は使えなくなる」「タンス預金に税金がかかる」という文句の詐欺は、いまだに高齢者被害の悪質なトレンドとなっています。
しかし、この事件の本質的な恐怖は、詐欺グループの悪質さだけではありません。「タンス預金というシステムそのものが持つリスク」にあります。
銀行預金 タンス預金
強盗・窃盗 リスク極めて低い 非常に高い(狙われやすい)
紛失 通帳再発行等で保護可能 発見不可能になるケース多数
家族による把握 口座照会等で早期に気づける 完全にブラックボックス化する
詐欺への耐性 窓口やATMで水際阻止がある 誰の目にも触れずに奪われる
もしアキさんがお金を銀行に預けていれば、まとまった額を引き出す際に窓口の局員が異変に気づき、警察に通報して水際で防げた可能性が高かったのです。しかし、誰の目にも触れない「タンスの奥」にあったからこそ、詐欺師にとってはこれ以上ない標的となり、家族が気づいたときには手遅れという最悪の結末を迎えてしまいました。
破滅した「絶対の安心」のあとで
「ごめんね、タモツ……」警察の取り調べが終わり、実家で、アキさんは息子に謝り続けました。自信に満ち溢れ、現役時代のようにタモツさんを叱り飛ばしていた強い母親の面影は、もうどこにもありません。奪われた1,000万円は、アキさんのこれからの医療費であり、もしものときの介護費用、そしてなにより、彼女の「自立した老後」を支えるプライドそのものでした。
それが一瞬にして、文字どおり「ただの紙切れ」に変えられてしまったのです。「俺に謝ることじゃないよ。それより、これからどうするか一緒に考えよう」。タモツさんは母の肩を抱きしめながら、激しい怒りと、もっと早く母の「孤立」に気づいてやれなかったのかという自責の念に駆られていました。
タンス預金が守っていたのは、お金ではありません。高齢者が「子どもに迷惑をかけずに生きていける」という、最期の安心感だったのです。それが崩壊したいま、親子は否応なしに、「資産なき老後」という厳しい現実に直面することになります。
「手元にあるから安心」という感覚は、認知機能が衰え始める高齢者にとって、時に最大の凶器に変わります。現在、詐欺グループの手口は巧妙化しており、高齢者の「孤独」と「大切な資産を守りたいという防衛本能」に土足で踏み込んできます。
私たちがすべきことは親の防犯対策を勧めることだけではありません。そのお金がブラックボックス化していること自体のリスクを指摘し、一刻も早く安全な資産管理へと移行させることが重要でしょう。
