地方移住は「失敗プラン」まで含めて検討する
近年、老後生活を都市圏から離れてゆったり過ごす地方移住が注目されています。一方、移住後に「思っていた生活と違った」と感じ、都会へUターンするケースも少なくありません。
ただ、そこで見落としがちなのが「出戻りにもまとまった費用がかかる」という点です。具体的には、次のような支出が発生します。
・引っ越し費用
・敷金・礼金
・仲介手数料
・火災保険
・その他(清掃代、家具・家電購入など)
コウジさん夫婦の場合、引っ越し費用や敷金・礼金、家具・家電の買い替えなどを含めると、東京へ戻る際にも300万円程度の費用がかかりそうです。その場合、資産は2,500万円から2,200万円まで減少することになります。さらに、都会に戻ったあとの生活費も考慮しなければなりません。
東京都が公表した資料によると、65歳以上世帯の消費支出の平均は月31万2,809円でした。
[図表]世帯主年齢階層別の10大費目別消費支出(全世帯) 出典:東京都総務局「家計収支の概況」
コウジさん夫婦の年金は月23万円のため、毎月約8万3,000円、年間約99万6,000円の赤字です。仮に90歳まで19年間老後生活が続いた場合、赤字額は約1,892万円にのぼります。ここに介護費用や医療費などの支出を含めると、資金が枯渇する可能性も否定できません。
したがって、地方移住を考える際は、「移住後の生活」だけでなく「戻る場合の費用」「戻った先の生活費」まで含めて検討することが大切です。
夫婦が最後に選んだ「老後の形」
その後、コウジさんは妻だけでなく、息子、娘と今後の生活について話し合いを重ね、「やっぱり、家族の近くで暮らしたい」と、移住後わずか2年ほどで出戻りを決意しました。
とはいえ、東京へ戻ったあとの生活は決して余裕のあるものではありません。現在の資産状況を考えると、できる限り固定費を抑える必要があります。そこでコウジさん夫婦は、もともと暮らしていた都心から少し離れたエリアの賃貸住宅に住むことに。広さも以前よりコンパクトです。さらに、沖縄で購入した車も手放すことにしました。
「沖縄はたしかに最高だった。残りのお金では、昔のような贅沢な生活も難しい。でも、家族の近くで暮らせるなら、そのほうが幸せだ」
こうして、夫婦は“第3の生活”をスタートさせました。
地方移住は、考え得るデメリットを洗い出したうえで、それをどこまで許容できるかが後悔しないカギとなります。
老後の住まいを考える際は「どこで暮らしたいか」だけでなく、「誰と、どのように暮らしたいか」という点も踏まえて、慎重に見極める必要があるでしょう。
辻本 剛士
神戸・辻本FP合同会社
代表/CFP
