◆奪還劇の果てに待ち受けていたのは…
報告を受けた安藤さんは、当日の仕事が終わるとすぐに現場へ急行した。「深夜の駐車場で僕の車を見つけたときは、手が震えました。持参したスペアキーで鍵を開けると、中にはハンバーガーの包装紙や食べかす、何でできたかわからないシミ、飲みかけのペットボトルが散乱しているひどい状態でした。そのまま回収して、翌朝一番にディーラーへ持ち込んで、スマートキー含めて鍵を全部交換してもらいました。二度とあいつが触れないようにしてやったんです」
愛車を取り戻した安藤さんは畑中さんに連絡を入れた。
「回収した車の中には、畑中の仕事道具と思われる高そうな工具一式が残されていました。それで『工具を返してほしければ、謝罪はもちろん、鍵の交換費用と清掃代を全額支払え』と突きつけたんです」
金額を決める際には葛藤もあったという。
「畑中のやったことは許せませんでしたが、だからと言って過剰に金をふっかけるのは嫌でした。なので真っ当な値段だったと思います。それでも鍵の交換代がかなりしたので、あいつは最初見苦しい言い訳をしていました。ですが、仕事道具を人質に取られ、逃げられないと悟ったんでしょうね。結局、渋々ながらも全額支払うことに応じました」
お金は回収したが、壊れた信頼は戻らなかった。悪評は地元中に広まり、もう誰も畑中さんを相手にしなくなった。以降、畑中さんが地元に帰ってきたという話も聞かなくなった。善意を裏切る代償は、本人が思っているより高くついたのかもしれない。
<TEXT/和泉太郎>
【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め

