◆感情を麻痺させ、重労働に耐える日々
当時、ドラッグストアの社員だった松本京香さん(仮名・30代)は、出勤前にお酒を飲むことが常態化していた。周囲から米10kgの袋詰めや重いドリンク類の補充といった力仕事を押し付けられる日々。店長からは「仕事が遅い。俺がやったほうが早いんじゃない?」とプレッシャーをかけられ、作業を早めるとさらに仕事量を増やされるという悪循環に陥っていた。
終わらない緊張と重労働は彼女の心身を蝕み、絶叫と嘔吐の末に救急搬送されることさえあったとか。
「信頼していた先輩は他店舗へ異動し、職場に助けを求められる人は誰もいませんでした」
孤立無援の状況で、彼女はアルコールに救いを求めた。
「最初は仕事終わりに飲むだけだったんですが、やがて出勤前に駅で2缶飲むようになりました。高揚感を得るというよりは、お酒を飲むことで感情を麻痺させ、自分を落ち着かせていましたね」
彼女は「たぶん酒臭い状態で出勤していたと思います」と振り返るが、周囲は何も言わなかったという。
その無関心さが、彼女をさらにアルコールの世界へと追い込んでいく。やがて、抑うつ感がひどくなり、朝、体が思うように動かなくなった。欠勤が続き、その間もアルコールに浸る。精神科で「適応障害」と診断された後も、現場に戻らなければいけないというプレッシャーから缶チューハイを開けてしまう。
「悪いことと知りつつも、手が止まらなくなっていました」
その後は入院することになり、会社も辞めることになった。現在も無職の状態が続いているという……。
◆言葉にならないSOS
朝の駅で、スーツ姿のまま酒を飲む人々。一見すれば不謹慎で不可解な光景に映るかもしれない。しかし、今回紹介した3つの事例からは、過酷な労働環境、過剰なプレッシャー、そして精神的な孤立に対する自己防衛的な行動だったということがうかがえる。
アルコールによって感情を麻痺させ、仕事へのスイッチを無理やり入れ、あるいは絶望から一時的に逃避しようとしていた。
前出の髙橋さんは「朝のホームで缶を握っていた自分は、怠けていたわけではなかった。ただ、ちゃんと『疲れている』と言えなくなっていたのだと思う」と語るが、その一杯は、限界を迎えた人間が発した言葉にならないSOSなのかもしれない。
<取材・文/日刊SPA!編集部、藤山ムツキ>
【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。X(旧Twitter):@gold_gogogo

