◆相手の正体は、まさかの…
寛子さんは、ある疑念を持っていたため、女性の説明に対して質問を繰り返した。「母がいくら尋ねても、相手はボランティア団体である証拠を示せなかったので、母は入金を拒否しました。すると、相手はとうとう本性を現したんです。『私は敏郎さんの愛人だ』と。そして、最初に電話してきた男性は、父と彼女の間にできた子どもで、すでに成人していると言うんです」
ボランティア団体を装った振り込み先の口座は、もう一つの家族を養うための「送金ルート」であった。さらに相手の女性は「自分の息子には遺産を相続する法的な権利がある」と、淡々と権利の行使を宣言した。
「父を失ったばかりか、幼い頃からずっと『家族を一番に考える人間』だと思っていた父の人物像まで崩壊することになり、本当にショックでした……。おそらく、母は自分以上にショックを受けていたのではないかと思うんですが……」
発覚した裏切りに対し何を想ったのか、最終的に相手の女性とどのような決着をつけたのか。寛子さんは今も詳細を語ることを拒んでいるため、阿部さんにも真実は分からない。
「ただ、唯一母の想いを感じる事柄がありました。うちの客間には仏壇を置くための専用のスペースがあって、母は父のために新しい仏壇も用意していました。ですが、今もその場所に仏壇は置かれていないままなんです……」
空っぽの仏壇置き場。それは、亡き夫が守り通したはずの「誠実さ」という嘘に対する、寛子さんなりの答えなのかもしれない。
<TEXT/和泉太郎>
【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め

