◆喫煙所で再び遭遇した親方と交わした会話
しかし、親方の“けじめ”はそれだけでは終わらなかったそう。「翌日の昼、職長たちが集まる打ち合わせの場で、順番にそれぞれが当日の工程を発表するなか、自分の番になった際に親方がマイクを手に取ってこう言ったんです。『現場の引き渡しが終わるまで、今後は誰であろうと全ての部屋の浴室内にモノを置くことを一切禁止する』って」
「誰であろうと」という言葉に、会場は一瞬ざわついたという。他の職種の行動に口出しするなど、本来あり得ないことなのだとか。だが親方は一向に動じることなくマイクを次に回したという。コウタさんもあ然として、言葉が出なかったそうだ。
その日、コウタさんは休憩時間に一服しようと喫煙所に向かったところ、ばったり親方と出くわす。
「お互いタバコを吸いながらしばらく黙っていて、気まずい空気でした。でも口を先に開いたのは親方のほうです。『昨日は悪かったな』と。それから照れくさそうに身の上話を始めました」
親方は21歳まで暴力団の構成員をしていたこと、覚せい剤の常用が理由で3年間刑務所に入っていたこと、出所後にフラフラしていたときに今の会社の社長に拾ってもらったこと……。
「彼は目を細めて『最初は給料も低かったけど、ちゃんと堅気になりたいってがむしゃらに仕事を覚えたんだ。あのときの気持ち、あんたの必死の言葉で思い出したよ』と。そして『若い連中の前で引っ込みつかなかったんだよな。だから許してよ』と続け、照れくさそうにはにかみました」
コウタさんはタバコの煙を吹き出したあと「そっすか」と笑い、「でも打ち合わせのときの発言、ありがたかったです」と礼を言ったそうだ。
「あの『浴室を汚さないでくれ』の一言を発しなければこっちも泣き寝入りだったし、相手を軽蔑したまま嫌な気持ちで仕事を終えていたでしょうね。勇気を出してよかったです」
他人への迷惑を顧みない態度で、過剰に威勢を張っていたオラオラ系の入れ墨男。そんな異質な存在でも腹を割って話せば、理解し合える場合もあるのかもしれない。
<取材・文=森田浩明/A4studio>
【森田浩明】
編集プロダクションA4studio(エーヨンスタジオ)所属のライター。

