◆ロマンス詐欺でニセ俳優に貢いていた
だが、これだけでは終わらなかった。心の隙を突く手口は形を変えて忍び寄る。「昨年、今度はロマンス詐欺に引っかかったんです。母がかかりつけのクリニックの看護師さんに『フェイスブックで俳優の目黒蓮さんとやり取りしている』と話したことで、発覚しました。母はすっかり信じ込んでいて聞く耳を持たないため、警察に相談し、母に直接アドバイスをしてもらうよう依頼したのです。ところがその翌日、警察から『お母様を保護している』と連絡が入りました……」
母はニセ目黒蓮に対し、「警察から注意された」と伝えたところ、犯人が焦って最後の振り込みを要求したのだ。銀行窓口で「30万円を目黒蓮さんに振り込む」と答えた母の言葉を行員は不審に思い、通報。幸い、被害は未遂に終わった。
「でも、調べてみるとすでに何度か母が不審な振り込みをしていたことがわかったんです。犯人は誕生日プレゼントや交通費名目でお金を要求していたそうです。2回目の詐欺被害以降、振り込み限度額を1日10万円に設定していたのですが、犯人に一回10万年を計3回振り込んでいました。数か月前の話でしたし、大きな金額ではなかったので、諦めることにしました」
次々と罠にかかる母。佐藤さんはこれ以上の被害に遭わないために、長年住んだ戸建てを手放す決断を下す。セキュリティの高いマンションへ母を転居させたのだ。
「母は父を亡くしてから認知症が進みました。ロマンス詐欺に騙されてしまったのも寂しさがあったかもしれません。最初の詐欺に遭ってから、母を訪ねる頻度を上げたり、メールや電話の回数を増やしたりしていたので、被害額をこの程度に抑えることができたのかなと思います」
◆親と子、警察の三者が緊密に連絡を取り合う
佐藤さんは教訓として、「警察との連携」が重要だと強調する。「被害に遭った後、警察から度々母に様子を窺う連絡が入るようになりました。所轄署の番号をスマホに登録するだけでなく、警察から連絡があるたびに母が私に『今日、〇〇警察から電話があった』と報告することをルール化しました。その後、私から改めて『今日、母に連絡くれましたか?』と確認し、担当の警察官ともコミュニケーションを取るようにしていました。この対策は非常に有効だと褒められましたね」

「認知症の兆候があったり、一人暮らししていたりするなど、詐欺被害に遭いやすい状況がある場合は、まず会話する機会を増やし日常的にアンテナを張っておくことが大事。その上で、物理的な対策をしましょう。防犯カメラや人感センサーライト、モニター付きインターホンの設置、ホームセキュリティの導入などです。ただ、あまりにも防犯を強調すると本人が拒否反応を示す可能性もあります。『心配だから私が安心したい』と主語を自分にして伝えるのがコツです」
老後資金を詐欺で失ってしまうと、その後の生活基盤は根底から揺らいでしまう。万が一被害に遭っても、その打撃を最小限に食い止めるために、今日からできる一歩を始めていきたい。
<取材・文・撮影/中山美里(オフィスキング)>
【中山美里】
性風俗、女性問題、金融犯罪などを中心に取材・執筆するフリーライター。性とお金に対する欲望と向き合う人間のフィールドワークがテーマ。ショークラブダンサー等を経て、未婚で1児を出産後、結婚。3児の母。高齢者の性を取材・執筆した『ルポ 高齢者のセックス』(扶桑社)など著書多数。性の仕事に対する差別や偏見解消に取り組む一般社団法人siente代表。

