無理な節約より固定費“圧縮”…黒字化を生んだ「返済額軽減型」
実際、退職金で住宅ローンを完済したものの、老後の生活資金がなくなって後悔する人を数多く見てきました。資産があるうちに運用し、資産寿命を延ばすほうがうまくいく可能性は高いでしょう。資金に余裕がない人ほど、慌てて繰り上げ返済するのではなく、長期的な視点で対策を講じるべきです。
では、Aさんのようなケースはどうするのが正解か。生活を切り詰め、足りない分は貯蓄を切り崩すしかないのでしょうか。
まず、Aさんに取り組んでほしいのは、無理な節約ではなく、固定費の削減を中心とした支出の圧縮です。その手段として私が提案したのは、「返済額軽減型」の繰り上げ返済でした。
住宅ローンの繰り上げ返済には大きく2種類あり、一つは毎月返済額を変えずに返済期間を短縮する「期間短縮型」、もう一つは、返済期間は変えずに毎月の返済額を軽減する「返済額軽減型」です。
Aさんの場合、貯蓄から500万円を捻出し、全額を返済額軽減型の繰り上げ返済に充当しました。その結果、毎月の返済額は11万円弱になり、ほかの固定費の削減と合わせ収支が黒字化しました(図①参照)。
[図表1]Aさんの住宅ローンの返済シミュレーション
「目先の損得にとらわれない」…低金利の「借金」は手元に残しておく
貯蓄は約1700万円となり、老後資金として十分とはいえないものの、不測の事態に備えられる金額です。家計の黒字が継続し、貯蓄が増えれば、老後資金も増やせます。すぐに使わない金額をリスクの少ない投資に回すのもよいでしょう。こうして老後資金がまた増えれば、収入が年金だけになった時点で、一括返済を選択する手もあります。
住宅ローンを利用する人は、「借金を背負っている」という意識があり、できるだけ早く返済を済ませたいと考えがちです。「余っているお金はどんどん繰り上げ返済に回すべし」と主張する人も少なくありません。
しかし、それが当てはまるのは十分な蓄えがある人だけ。蓄えがないままにそれをやってしまうと、生活が行き詰まってしまうことがあります。その場合、再度、住宅ローンのような低金利でお金を調達するのはほぼ不可能です。
目先の利息などの損得ばかりにとらわれず、資産の運用益などとも比較しながら、それなりにゆとりある生活が続くような返済計画を立て直すことが先決です。
慌てて繰り上げ返済はNG
日銀が2024年3月に「マイナス金利」を解除して以降、住宅ローン金利が上昇傾向にあります。とはいえ、毎月の負担がすぐに変わるわけではありません。住宅ローンの変動金利には「5年ルール」「125%ルール」と呼ばれるものがあるからです。
5年ルールは、適用金利が変わっても毎月返済額は5年間固定され、6年目に返済額が変わっても、125%ルールにより上限は125%までとなります。高齢者はローンの残債もそれなりに減少しているはずです。慌てて繰り上げ返済するより、自身の生活資金をしっかり確保することを最優先しましょう。
定年後まで返済が続く人は、この機会に返済計画を練り直してみても損はありません。
