
こんにちは、奈良在住の編集者・ふなつあさこです。
ご存じの方も多いと思いますが、ここ数年、全世界で抹茶が大ブーム。2025年には、抹茶を含む緑茶の輸出額が721億円と過去最高を記録したそうです。
海外ではフラペチーノやパフェなどのスイーツなどにアレンジされることも多いようですが、日本の茶道を学びたいというインバウンド客も増えており、伝統的な茶道具への注目も高まっています。
なかでも、大和国高山(現在の奈良県生駒市高山町)ゆかりの茶筌(ちゃせん。茶筅とも書きます)は、ここ最近、産地でも品薄状態。
そんな“茶筌の里”高山の魅力をご紹介します!
茶筅師・谷村丹後さんの工房「和北堂」を訪ねて

奈良県生駒市の北端に位置する、高山地区。茶筅(*)づくりはかつて、“一子相伝”──つまり師からたった一人の弟子へ、口伝と見て学ぶことで受け継がれてきた秘伝の技でした。技を盗まれないために、夜中に茶筅をつくっていたというから驚きです。
茶筅師・20代目谷村丹後さんの工房「和北堂」を訪れ、お話を伺いました。
*谷村さんはこの字を用いています

お茶は奈良時代に伝わっていましたが、その飲み方は現在とはまったく異なるものだったそう。
お茶の粉にお湯を注ぐ「点茶法(てんちゃほう)」が伝わったのは鎌倉時代、“茶道”と聞いてイメージする「わび茶」の原型が作り出されたのは、室町時代後期のこと。
その立役者が、奈良・称名寺(しょうみょうじ)の住職でもあった村田珠光(むらたじゅこう)。茶筅は、この珠光と親交のあった鷹山宗砌(そうぜい)によって生み出されたといいます。

丹後さんは「洗い物に使う“ささら”が茶筅を生み出すヒントになったのでは」と考えているそう。
宗砌は、大和鷹山の城主・鷹山頼栄の次男で、自作の茶筅を時の帝・後土御門天皇に献上し、「高穂」の御銘をいただいたことから、地名も「高山」とされるようになったのだとか。
当初は鷹山家の秘伝とされた茶筅づくりの技は、鷹山家が没落したのちにも、この地域の大切な産業として受け継がれてきました。

江戸時代には徳川家からの保護を受け、高山の茶筅師13家に名が与えられました(その名はなぜか地名だったそう)。「丹後」の名跡は、現存する3家のひとつです。つまり、谷村家は創業500年以上!

徳川将軍家はもとより、仙洞御所や公家、諸大名へも納品していたといい、写真左の箱は納入の際に使われた提灯箱とのこと。現在でも、裏千家や武者小路千家などに茶筅を納めているそう。

とはいえ、意外にも「継ぐ気は全然なかったんです」と丹後さん。一般企業での勤務を経験したことで、かえって家業を見つめ直すきっかけとなり、29歳でお父さまについて茶筅師としての修業をスタートさせます。基礎を身につけるだけでおよそ10年かかったといいます。
茶道具のなかで、茶筅はいわば消耗品。茶碗や茶杓には銘が付けられ、芸術品として展覧会も開催されるほど。「茶碗を作るのはArtist(美術家)、茶筅を作るのはArtisan(職人)です」と丹後さんはいいますが、その技は芸術的としか言いようがありません。

さっきまでただの竹筒だったのが、表皮を削って16片に割る「片木」という工程を経て、なんとなく茶筅を思わせる形に。

茶筅の種類に応じた穂数に割る「小割」という工程ののち、流派によって削り方を変え、特徴を出す「味削り」をします。
穂先を薄く削ることでしなやかになりますが、薄くしすぎては耐久性が下がります。その絶妙なバランスを指先と小刀だけで追求します。それこそが、茶筅づくりが「指頭芸術」と呼ばれるゆえん。

工房には、各工程の茶筅が並べられていました。大きく分けると7工程だそうなのですが、実際にはもっと多くのステップを経てつくられていることがわかります。

ちなみに、工房では茶杓や蓋置など、丹後さんの作品を購入することもできます。……が、茶筅はとにかく品薄。この日は3つだけありましたが「1つもない日もあります」とのこと。
なお、工房では見学や体験も受け付けているので、詳しくは公式サイトからお問合せを!
和北堂 谷村丹後
奈良県生駒市高山町5964
お抹茶体験もできる「生駒市高山竹林園」

高山は、茶筌や茶杓といった茶道具だけでなく、竹編み針など竹製品の産地でもあります。そうした地場産業を背景に開設されたのが、高山竹林園です。
こちらでは、自分でお茶を点てていただく「お抹茶体験」ができるんです〜! 素敵な庭園を眺めながら、のんびり一服。

資料館には、さまざまな流派の茶筌がずらり。流派によって好みが異なるそうです。

高山茶筌の原点「高穂」を再現した茶筌も。

ちなみに、竹製の編み針も高山の特産品。世界中に愛好者がいるそう。

資料館を出ると、竹を中心とする広々とした庭園が。さまざまな種類の竹が植えられています。

淡竹の花が咲くのは120年に一度ともいわれているのですが、竹林園では立て続けに花が咲いたそう。
写真だとわかりづらいですが、稲のようなものが花(ちょっと枯れています)です。竹は根でつながっていて、花が咲くと同じ株の竹が全部枯れてしまうんだとか。

竹林園を訪れたのは3月末だったのですが、茶筌などの材料となる竹を寒干ししているところもギリギリ拝見できました。毎年1月中旬ごろから見学することができます。

竹林園の一角には、茶室「竹生庵」があり、貸し出しもしています。そのほか、竹林園でも茶道具や編み針を販売していますが、なんとこちらでも茶筌は品薄で、販売は1人1本までだそう!
高山竹林園
奈良県生駒市高山町3440

