お金で買えなかった、人生最後の財産
幸いにも症状は軽く、数日後に施設に戻ってきたユタカさんは、何事もなかったかのように、また仕立ての良い服を着てロビーに現れました。そして、ほかの入居者たちといつもどおりに孫の写真を出して談笑しています。
その姿を少し離れた場所から見つめる職員たちの胸には、いたたまれないような憐れみの目を向けながら、「元気になられてよかったです」と、静かに見守るしかありません。
ユタカさんの銀行口座には、多額の資産が眠っています。しかし、その大金をもってしても「じいじに会いにいこう」という、家族の自発的な言葉を1回分すら買うことはできませんでした。
ほかの入居者たちの笑い声が響くロビーで、鳴ることのないスマートフォンを大切そうに握りしめているユタカさん。お金ですべてを支配しようとして、家族を省みなかった人が、老後に手に入れたのは、誰にも本当の素顔を明かせない、偽りの栄華と底なしの孤独でした。
