◆■便利さの代金は、誰かがすでに払い始めている
シアトルのテック業界に身を置くぼくの実感として、電力問題はいまやAI成長の最大のボトルネックになりつつある。老朽化した送電網はAIの急成長に追いつけず、電気代は上昇し、クリーンエネルギーへの転換が間に合わない分を天然ガスが補っている。こういう話は、オフィスの中にいるとなかなか実感しづらい。日本にとっても、これは遠い話ではない。スマホでChatGPTに問いかけるとき、そのエネルギーコストは日本の電気代の請求書には載らない。エネルギー自給率が低い日本が、AIというきわめて大食いなインフラを「世界のどこか」に丸ごと外部委託している歪みは、まだほとんど議論にすらなっていない。
「便利さ」には必ずコストがあって、そのコストが誰かの目の届かない場所に押し込められているだけだ。ChatGPTが無料または安価で使えるのは、どこかの発電所と、どこかの地域の水が、その計算を肩代わりしてくれているからにすぎない。マスクが宇宙に解決策を求めているのも、地上でのコストを誰かに押しつける構造から本気で逃れたいからかもしれない。
ぼくはこれを書き終えたら、今日もシアトルのオフィスで、画面の向こうのAIに何十回目かの問いかけをするだろう。ちょっとした後ろめたさを、コーヒーと一緒に飲み込みながら。ただ、スマートな画面の向こう側で、今この瞬間も砂漠の川が干上がっているかもしれないということ。その想像力だけは、手放さずにいたいと思っている。
<文/福原たまねぎ>
【福原たまねぎ】
シアトル在住。外資系IT米国本社のシニアPM。ワシントン大学MBAメンター(キャリア・アドバイザー)。大学卒業後にベンチャー企業を経て2016年に外資系IT企業の日本支社に入社。2022年にアメリカ本社に転籍し現職。noteでは仕事術やキャリア論など記事を多数発表。初著書『世界の一流が休むためにやっていること』(朝日新聞出版)が発売中。X:@fukutamanegi

