
年々上昇する物価のなかでも、とりわけ価格高騰が顕著なのが「不動産業界」です。急激な値上がりが始まった2021年から4年ほどで都内新築タワマンの抽選倍率は最高1000倍となり、北海道ニセコの別荘には約30億円の値段がつきました。これらの物件の購入者を辿っていくと、中国・香港圏の富裕層の存在が見えてきました。本記事では、吉松こころ氏の著書『強欲不動産 令和バブルの熱源に迫る』(文藝春秋)より一部を抜粋・編集。中国・香港圏の社会状況を紐解き、彼らが日本の不動産を購入する背景に迫ります。
都心の中古マンションは4年で1.8倍に値上がり…これほど家が買えなくなった時代はない
不動産業界で取材を始めて、23年になる。
はじまりは25歳で入社した業界新聞社で、約12年勤めた。退職後、37歳で会社を興し今年で12期目に入る。この間、不動産・建設の世界で生きる人々を取材し、記事を書いてきた。
今ほど家が買えなくなったことを痛切に感じ、また疑問に思うことはない。分譲マンションは完成する前に二度も三度も転売され、そのたびに数千万円が上乗せされて売買されている。それに誘導され、都心部の中古マンションも値上がりし、急激な値上がりが始まった2021年から4年で1.8倍ほど上がった。3倍近く高騰した物件もあった。
都内の新築タワーマンションの販売所には人が押し寄せ、最高で1000倍という倍率がついた。東京から1000キロ離れた北海道のスキーリゾート・ニセコでは造成された山に建つ別荘に、おおよそ30億円の値がついた。値段もつかなかった原野が、1億円以上で取引された。
いったい、誰が買っているのだろう。立ちこめるにおいの強さと、見えない購入者の存在を、私は考え始めた。
東京のタワマンに中国国旗、高級外車のナンバーに「99-99」…見えてきた購入者の正体
そんな時、「香港には200億円の一軒家が当たり前にあるよ」と知人から言われた。本当なのか。住んでいるのはどんな人で、何をして稼いでいるのか。そこから、私の旅は始まった。これまで経験したことがない不動産高騰の理由を、知りたいと思った。
旅のはじめに、私はひとつのルールを自分に課した。自分の足で現地を歩き、自分の目で見て、話を聞き、それを記録することだった。
香港から帰国すると、見えなかったものが少しずつ見えるようになった。
例えば、東京の湾岸エリアに建つタワマンで複数の部屋のベランダに、中国国旗が掲揚されていた。港区にある小学校正門前に停車した送迎用のロールス・ロイスやベントレー、マイバッハのナンバーに「99-99」が多かった。9は、中国で縁起がいいとされる数字だった。
バブル崩壊後、下落し切った国内不動産をさらったハゲタカファンドとは明らかに違う、中華系の小資本あるいは一族経営の人々が、不動産購入の主役になっていた。
それから1年にわたって、私は、香港、上海、ロンドン、ロサンゼルス、北海道、宮城、栃木、群馬、東京、千葉、神奈川、長野、大阪、静岡、愛知、岐阜、三重、広島、島根、徳島、福岡、熊本、大分、長崎、鹿児島、沖縄を歩いた。どんな顔をした人々が、誰に手ほどきを受け、どんなふうに情報や資金をやり取りし巨額の不動産を買っているのか。
取材の過程で、「逃資(とうし)」や、「フリーライド」、「内巻(ネイジュアン)」という言葉も知った。
「逃資」は、中国から日本に資金を逃すという意味の造語で、「フリーライド(=ただ乗り)」は、外国資本が、日本の整ったインフラや、治安の良さを享受して商売することをいう。
「内巻」は、中国国内の厳しい生存競争を指し、彼の地から逃げ出したいと願う人々のことを意味した。住む場所だったはずの不動産が、資産として持っておくべきものに変わり、本国を追われた時の逃げ場所になっていた。
